夢幻の函 Phantom share⑲
翌朝、いつの間に翌朝になったのか、夢だからワカラナイ。夢の中で眠ったのかどうかもワカラナイ。焚き火は消えている。寒くはナイ。熊はまだ座っている。ハルちゃんの食い散らかされた屍が眼前に転がっている。熊だな。食いやがったな。
衣服はズタズタにされ、肉は引き裂かれていたが、どういうワケかパンツだけは、傍らに無傷のまま、置かれていた。脱いだのか、熊に脱がされたのか。
と、熊が首を外した。なんだ、着ぐるみじゃないか。
熊の首がとれて、レイさんの顔が現れた。
「えっ、レイさん、何してんですか」
「この毛皮、かなり温かいワ。だって、」
と、そのとき銃声がしてレイさんが膝から崩れた。
テンガロン・ハットを被った男が二人、何処に潜んでいたのか、私のほうに駆け寄って来た。
「我々は、」
宇宙人じゃナイよな。
「森林警備隊のものです。森林火災や、熊による人間の襲撃を未然に防ぎ、森と人間の安全を守ります。森林警備隊の行動規律第三条の二項において、」
これは熊ではナイ。着ぐるみだ。観ればワカルだろ。
「大丈夫でしたか。危ないところでしたね」
熊じゃねえっての。
「いまの季節の熊は、タイヘン危険です」
だから、熊じゃナイことくらい観ればワカルだろ。
「いまの季節の熊は、平気でひとを食います」
で、あんたらは、平気で着ぐるみの熊を撃ったのか。
「隊長、こちらのナニカが死んでます」
もうひとりのほうが、隊長とやらにそういって、ハルちゃんの屍を指さした。ナニカが死んでるというのはどういう表現なのだ。
「おっ、これはっ」
と、隊長は、ハルちゃんの遺したパンツを拾い上げた。それからちっと匂いを嗅ぐと、すぐさまポケットに仕舞い込んだ。
「この熊はどういたしますか」
「うーん、かなりの熊だな」
かなりの熊、といういい方も私にはよくワカラナカッタ。
「すぐにでも処理しないとな」
それからテンガロンの二人はレイさんの着ぐるみを脱がした。例さんは下着以外身につけているものはなかった。
「おお、これはっ」
なんだっての。
それからテンガロンたちによるレイさんへの淫行が始まった。
「森林っ」
「森林っ」
「警備隊っ」
「警備隊っ」
「インコー条例、発動っ」
「よおっしぃぃ」
なんやねんそれ。
私はこれが私の夢ならば、なんというおぞまししい夢なのかと、そのとき初めて私の夢に嫌悪感を感じた。遠くに目をやると、たぶん函館市内だろう、黒い煙があがっていた。まだ燃えているのだ。
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