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2017年1月22日 (日)

夢幻の函 Phantom share⑮

 しかし、函館の街は燃えている。おそらく火の手は広がって大火になるだろう。ひょっとして私は焼け死ぬのか。私の夢の中で。待てよ、夢の中で夢をみているものが死んだら、どうなるんだろう。夢は終わるのかな。それならそれでもイイような気がしてきた。しかし、

「夢、覚めませんよ」

 と、ハルちゃんが私の肩に手をやって、耳元でそういった。

「覚めないって、どういうこと」

「覚めないんです。ずっとずうっと夢なんです」

 えっ、と、私は半ば白目をむいたのではなかろうか。

「~さんのこの夢は、覚めないんです」

「じゃあ、どうなるんです」

「ですから、ずっと、夢の中です」

「いつまで」

「永遠が終わるまで」

 そのせりふは、他人の戯曲からの盗用じゃナイか。

 ともかく、

「おいっ」

 私は、マリアの乳を吸っている土方に声をかけ、次は声もかけずに蹴飛ばした。

「なんのつもりナンだ」

「だって」

 と、マリアの乳房に念を残した顔を、そう、残念な、だ。土方がそういったのかと思ったのだが、そんな顔をしていったのは、聖母のほうだった。

「オッパイあげたことナイんですもの」

 と、いうと、イエスは、誰の乳吸ったんだ。

「私、子供、産んだことないし」

 目眩がした。それ以外、私に起こるべきことはなかったろう。

あなた、大工のヨセフの妻のマリアなんでしょ。さっきまで向かいの教会の像だった、Maria。

「左様なんじゃナイんですかっ」(左様、と書いて〔そう〕と読む。「あら、左様(そう)なの」と、かつては筆記されたらしい)。

私は鼻がくっつくほど、マリアの顔に接近した。その鼻をマリアが舐めた。

ほんとに夢なんだろうな。メルメスの催眠術だったなんてオチは許さないぞ。そんなもんは、黒沢清が『CURE』で映画にする前に、久生十蘭が『予言』という小説でネタに使ってんだから。あの映画は、起こっていることがメルメスの催眠術によって起こっているのだということさへ、それさへ無ければ、ほんとうに恐ろしい映画だったんだけど、そういう合理的なネタがワカッタところで、興味がかなり減衰した。ヒッチコックの『鳥』のようにすれば良かったのだ。しかし、そうなるとオカシナ不条理映画になっちゃったかな。

目眩の間に、これだけのideasynapsethroughした。

「ハルちゃん、それはそれでイイんだ。それも一興。覚めない夢の中で生きているほうが、ただ目が覚めているだけの日常で生きるよりもオモシロイ。もちろん、ボクにとってはだけども」

 それに、この夢はおそらくAliceの夢と同じだ。私は自分のみている夢の中に進入(或いは侵入)している。

「歳さん、とにかく、ここから逃げましょう。きっと火の手が襲ってくる」

「いや、いいんだ。オレはもう逃げるのはイヤになった。ここで焼け死ぬつもりだ。だからここを選んだんだ」

 本能寺。

そういうことか。

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