無料ブログはココログ

« 剰余価値と「消費=生産」、資本 について(続・2) | トップページ | マスク・THE・忍法帳-45 »

2013年8月13日 (火)

マスク・THE・忍法帳-44

 幸いなことに檜垣よりも先に新介のほうが現れた。新介は師匠を背中に担ぐと、脱兎のごとく葉子の病院に運んだ。態勢が整えられていたらしく、すぐに手術室に入れられると傷口を縫われて、包帯を巻かれ、個室のベッドに寝かされた。
 薬で眠らされたとみえて、深い眠りから醒めると、葉子の顔があった。
「新介はどうした」
 と、平吉は葉子に訊いた。
「舞さんの警護にまわるって、飛び出していったわ」
 さすがだなと、平吉は感心した。情勢判断が正しいのである。
「傷の具合はどうだ。どれくらいで動ける」
「三日は寝てないとダメよ」
 そうか、じゃあ、明日から大丈夫だなと、平吉は自分なりの算盤を弾く。

 シーンはあの洋館の応接間に移る。この前と同じように、檜垣とコードネームをシャークと称する青い眼の男がソファに身を沈めている。表情ひとつ変えない樋口に対して、シャークは苦り切ったとでもいえばいいのか、それが皮肉な口元の歪んだ笑みにみえる。
「惜しいことをしましたね」
 と、シャークが切り出した。
「それは、私の組織の者の死に対してですか」
「もちろん、そうです。と同時に、今後の戦略がお訊ねしたいですな」
「もう、送り込む刺客は、組織には存在しません。といって、どんな助っ人を要請したとて、二十面相に勝てる見込みはありません。先の三名の刺客は、そんじょそこいらの殺し屋とは格が違ったのです。それをもってして、やっと二十面相を手負いにしたのみ、ということは、正面攻撃も全て失敗に終わったということです。とはいえ、ここで表立って攻勢をかけて、舞を拉致すれば警察が動きます。それはあまり上手い策とはいえません。戸沢機関と張大元の組織の守りは鉄壁でしょう」
「では、ミスター檜垣、この勝負、負けですか。それは困りますね」
「あいにく黒菩薩は、刺客組織でね。女性を拉致する訓練はされていません。ただ奪い取ればいいという安易な作戦が失敗したとみるべきです」
 シャークは、それまでの皮肉な笑みを棄てて、テーブルを拳で叩いた。
「他人事のようにいうのはよせ」
「まあ、そんなにヒステリックにならないでもらいましょう。こちらから近づけないとするならば、向こうから出てきてもらえばいい」
「それは、どういうことだ」
「壺中舞のほうから、こちらに出向いてもらうのです」

 舞は突然届いた、み知らぬ差出人からの封書の封を切って、中の手紙らしきものを読んだ。父親の死と、貴女の狙われている理由が知りたくば、浅草寺仲見世『さより』まで出向かれたし。と記されてあった。これはうまい場所を指定してきたものだ。浅草寺にお参りにといえば、外出の理由は簡単である。しかも、敵の刺客は全て二十面相が屠ったと聞いている。張はそれでも、身近な護衛数名、さらに姿を隠しての護衛も数名を用意して、この浅草寺詣でを許可した。おりしも、三月三日、雛祭り。
 この護衛の中には新介の姿もあった。また付き添いの看護婦として葉子も同行した。
 しからば平吉は・・・。とりあえず長屋にその姿をみることは出来なかった。

 舞は浅草寺の参詣をすますと、仲見世をゆっくりと、『さより』という名の店を捜しながら歩いた。土産物屋なのか、菓子屋なのか、それとも。
 ところが、仲見世の途切れるところまで来ても、『さより』などという小料理屋風情の名前の店をみつけることは出来なかった。み落としたか、それとも、何かの悪戯か。
 アタリマエのような話であるが、檜垣にとって、『さより』という店があろうがなかろうが、そんなことはどうでも良かった。この風閂の男にしてみれば、舞を誘い出すことが出来ればそれで良かったからである。
 しかし、復興の進んだ浅草で、その人だかりの中から舞を略奪するのは、いくらなんでも無謀なことだ。さすれば、その帰途、何処かで、ということになる。そういうことを新介は推察していたが、張もまた腹心の護衛にそのことを伝えおいた。張が此度の舞の浅草寺詣でを許したのは、おそらく敵は最後の闘いを仕掛けてくるであろうという目算の上でのことである。
 場所の特定は難しかったから、新介の闘争本能という神経系統は、常に働いていた。ノガミで少年たちを束ねていたときと同じである。無論、その敵と闘うことは彼の作戦にはなかった。話に聞いた敵のワザから、舞を護る、カラダを張って護る。ただそれだけが新介の作戦といえた。
 中心市街を少し離れると、この頃はまだ砂利道を囲うようにして蒼茫たる荒れ地が、夏は草いきれを放つのだが、いまこの季節、やっと芽吹いた幼草が、大地を覆っていた。やがては、そこも浅草やジュクと同様の賑わいをみせる街になるに違いない。東京の復興は急ピッチで進んでいた。当時の日本は、目刺しに豆腐の味噌汁の昼飯で、夜は大根と豆の煮つけ、焼き魚、といった、現在からは考えられないほどの粗食であったが、そのせいでか、およそメタボリックなどという幻影に悩まされる労働者などはいなかった。
 舞を乗せた張の組織の高級セダンは、小刻みに揺れながら、何事もなく岐路についていた。舞は拍子抜けした顔つきで、後部座席に座っていた。しかし、新介の神経はここでいっぱいに張りつめた。動物的な予感がしたのである。案の定、セダンの前輪が突然パンクした。他の護衛のチーフが、新介と舞に、外には出ないように指示すると、拳銃を片手に部下二人と外に出た。つかず離れず、セダンのアトを走っていた戸沢機関の乗用車からも数名の者が身構えるようにして、飛び出した。
 張の部下の一人はパンクを点検して、チーフに伝えた。
「撃たれましたね。消音の狙撃ライフルでしょう。飛距離から考えると、近くじゃありませんが、そのままライフルで攻撃されたら、危険です」

« 剰余価値と「消費=生産」、資本 について(続・2) | トップページ | マスク・THE・忍法帳-45 »

ブログ小説」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/558792/57962481

この記事へのトラックバック一覧です: マスク・THE・忍法帳-44:

« 剰余価値と「消費=生産」、資本 について(続・2) | トップページ | マスク・THE・忍法帳-45 »