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2013年8月15日 (木)

マスク・THE・忍法帳-終

 平吉が観たものは、いまでいうならちょうどコンパクトディスクあたりの大きさと形状を持つ、何かのフィルターのように透明で、極薄い円盤状の物体が、無数に飛来する様子であった。それぞれはかなりの速度で回転しているらしく、飛び方は無軌道で、愛染医師の予想したように、次第に溶解してしまった。その間に、身体の肉をデタラメに切開、切断していくのである。透明な上に飛行速度が速く、数の多さから、これを封じることも抗することも不可能に思えた。ただ、飛距離には限度があるとみえて、殺戮の行われている間、檜垣は、その飛行圏内から出ていればいい。
 ということは、簡単にいえば、檜垣の立っている場所が最も安全ということになる。しかし、平吉はふつうの者ならそういう戦法をとるところを、さらに深読みして、これを避けた。もし、平吉がそういうふうな戦法に出たとしたら、すでに檜垣はこれを察しているはずで、それなりの対処の攻撃があると考えねばならない。
 檜垣の左の人工左腕から、風閂が発射された。
 平吉は二重回しのままズタズタになったが、本体がそこにはナイのはいうまでもない。「土遁の術かね」
 と、檜垣が、第一撃の風閂の飛来が落ち着くと、そういって笑った。
「たとえ土に潜ろうと、出て来なくば闘えまい」
 確かにそうである。そうして、出ていったが最後、再び、風閂が襲ってくる。
「攻撃は最大の防御なり、逃げ回っているだけなら、車の中の女性は頂戴して帰るが、文句はないな」
 新介にもそのコトバは聞こえた。舞が新介の手を強く握った。
「心配ありません、師匠には、必ず何か策があるはずです。それがなくてヤツの前に姿を現すワケがありません」
 そう、新介は舞に告げた。しかし、当の新介にも、その戦術の見当はついていない。戦車にでも入って対しなければ、防ぎも攻撃も出来やしない。
「風閂の旦那、攻撃は最大の防御なりとは、どの書からの引用か知ってるかい」
 と、そういう平吉の声がした。
 そういえば、このポピュラーな箴言の出典は何なのか。檜垣も知らなかった。
「さあ、ね、どうせ、孫子の兵法あたりだう」
 と、答えたが、
「残念でした。孫子はまったくその逆のことならいってるけどね。旦那のいった、おおいに流布されているその箴言は、囲碁将棋の、囲碁の格言でしかナイんだな」
「そうかね。まあ、何でもいいが、いい加減に出てきたらどうだ」
「ああ、いま、出ていってやるよ」
 たしかに、土遁の術であった。檜垣の前方の土堤の土が土砂崩れを起こすと、装甲車が一台、姿を現した。戦車とまではいかないが、装甲車である。
 檜垣が胆をつぶしたのは、いうまでもナイ。
「貴様、戦争を始める気か」
「いったろ、戦争とはこういうもんだと」
 いくら風閂でも、装甲車の鉄板は貫けない。その装甲車が、檜垣めがけて突進して来たのである。
「なんというヤツだ」
 唾棄するように叫んで、檜垣は、横に飛んだ。
 この様子を観ていた新介は笑いが込み上げて来るのを感じた。
「やっぱり師匠、やることが違う」
 舞も苦笑いのような表情でその様子を観ている。
 と、座席シートの下から声がした。
「どうじゃ、なかなかオモシロイ趣向じゃろ」
 新介も舞も足下を観た。すると、前部シートの後ろ側がパカッと口を開けて、二十面相平吉が顔を出した。
「師匠」
「あの装甲車はハリボテのラジコン操縦だ。俺の手下が、草むらの影から操縦している」「いつから、そこに」
「出発のときからさ。装甲車は、あの風閂が出そうな場所数カ所に仕込んでおいたが、いくらハリボテでも、ちと、銭がかさんだな。張旦那と戸沢機関の連中には、車から離れるなといっておいたんだが、油断したな。可哀相なことをした」
 いうと、平吉はすっかりカラダを現した。それから運転席に座って、イグニションを回した。
「この張旦那のセダンは装甲車なみの防弾だ。さて、これから、敵のボスを引っ捕らえにいくとするか」
 セダンが発進する。
 檜垣が、そのセダンに向って駈けて来る。舞を何がなんでも拉致する気でいるらしい。 檜垣との距離、三間。セダンは急停車して、ドアが開けられ、二十面相が降り立った。今度はほんとうに二人のライバルは対峙して屹立したのである。
「お送りしようか、風閂の旦那」
「地獄の土産に教えておく、我が名は檜垣源信」
「あっそ」
 と、いうが早いか、平吉は檜垣めがけて飛んだ。その頭上を飛び越えて、檜垣の向こう側に降りた。檜垣が振り向く。
「接近戦では、風閂は使えないとでも思ったか」
 不敵な口調で、自身の左腕に手をかけた。
「そんなことは思っとりゃせんが、風閂はもう使えん」
 一瞬、眉を顰めて、檜垣は人工腕のスイッチに触れた。だが、超薄型の小型円盤を吐き出す口からは何も出て来ない。それもそのはず、発射口が、ゴム状のもので塞がれてしまっている。いつの間に。
 この事態に怯みもせず、咄嗟に檜垣は次の行動に出る。S& Wが胸元から抜かれて、平吉に狙いをつけた。が、それよりほんのコンマ1秒ばかり速く、平吉のデリンジャーが火を吹いて、檜垣の小型拳銃を弾き飛ばした。
「お互い、飛び道具はナシでいこうか」
 といわれる声を聞いた途端、樋口の捨て身のごとき飛び蹴りが宙を飛んだ。その足の爪先あたりを掴んで捻り、檜垣のカラダが中空で裏返ったそのとき、掴んだ足を中心にして平吉のカラダは円弧を描いて回転すると、踵は正確に檜垣の後頭部にめりこんでいた。
 檜垣のカラダが地面に落ちたさい、平吉の膝は今度は檜垣の脊髄の急所らしきところに一撃をくれた。
「技におぼれるものは、技に没す。これは誰がいったか知らんだろう」
 という、平吉のコトバに、樋口は地べたしたまま、答えない。
「いま、俺の作ったおコトバだ」
 ようよう、檜垣は両手を支えにして起き上がった。
「風閂が敗れたとき、すでに私の負けは決していたというのだな」
「原爆とて、打ち落とされる日が来る。その次は打ち落とされない原爆が発明されるだろうがな。要するに武器や兵器にゃキリがないんだよ、おっさん」
「なるほど、しかし、私もただでは死にたくナイ。道ズレ、あの世までご同行願おう」
 と、檜垣はベルトあたりに何かを捜した。おそらく、おのれのカラダに仕掛けた自爆装置の端末でもあったのだろう。そう、あったのだ。それは、いま平吉が手にして、檜垣にみせている。
「これだろ。いいかね、檜垣さん。二十面相というのは、泥棒なんだ。盗みの天才なんだよ。こんな物騒なものは困るな。まあ、こういうものを常備しているとは思ったが」
 遠くに自動車の迫って来る音が聞こえ始めた。
「あれは、おそらく新介、俺の弟子だか、そいつの無線連絡で、張と戸沢機関の連中が駆けつけてきたんだろ」
 檜垣は、観念したらしい様子をみせながらも、落ち着いた声でいった。
「お前は『デモクレスの剣』ノートの全貌を知りたくないのか」
「知りたくないね。おそらく舞さんが語り終えたとき、彼女には永遠の眠りが訪れるような仕掛けがしてあるんだろう。彼女の命とは引き換えられないな」
「この先、この日本がどうなってもかまわんというのだな」
「ああ、かまわんな。二十面相は、日本の未来なんざに興味はナイんじゃ」
「日本の未来、ふふ、世界だぞ。世界が手に入れられるというのに」
 それを聞いて、二十面相平吉は高らかに笑った。
「ハッハッハ、世界なら、いつでもこの俺が二十面相が盗んでくれよう」
 檜垣を取り囲むように、張の部下と戸沢機関の連中が、銃器を構えている。
「おいおい、平吉くんよ、こんな安手の簡単安直なラストシーンでいいのかい」
 檜垣は、まだ逃げる秘策でもあのか、嘲笑うようにそういった。
「ああ、いいんじゃ。二十面相シリーズのおしまいは、たいていこういうふうだからな」 チッといったかどうか、檜垣が渋面をつくった、と、そのとき、誰が発砲したのか、一発の銃声が聞こえ、檜垣の側頭から血が吹いた。みなが、銃声のほうをみると、舞が拳銃から紫煙をあげて、立っている。銃口は、まだ檜垣のほうを向いたままだ。
「お父様の仇、そうして、多くの人々の仇、お許しください。私、やってしまいました」
 こうして、血で始まったエピソードは血で終わったのである。
 例の『デモクレスの剣』ノートに何が記されていたか、それを知るひとは、この事件の時点から五十年後のひとたちだけとなる。つまり、現在を生きる日本人の・・・。

                              終幕

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