夏の日
ラジオから死んだひとの歌が聞こえてくる
ああ そうですか まだ生きねばなりませんか
焼夷弾の絨毯爆撃で 燃えている夏の日
やけに暑いのは そのためだったか
わたし 自転車で風をきって走っていたつもりが
気がつくと 煮え立った湯の中で
車輪が空回りしている
夢
をみて 目が覚めた
消し忘れたラジオは『懐かしの歌謡曲』という番組を
ゆんべの夜を引きずったまま 流していて
母親が いつもの鍼治療から帰ってきた
ナガサキの原爆で死んだ少女は
幼く美しく 土に敷かれた薄い布切れの上に座っていたが
止まらない水下痢のせいで 数日後に死ぬ
寝坊した看護婦があわててラジオのスイッチを切ると
少女は少し 笑ったそうな
「お寝坊さんね」といったそうな
この水を 少女に飲ませてあげたかった
と
今度こそ ほんとうに
私は自転車を走らせて補水液はかごの中で揺れる
夏の日
いつまでも少年であるために
燃え落ちる得体の知れぬものと 灼熱の瓦礫の中を
もうちょっとだぞ、と
微熱の炎に焦げながら ああそうですか
夏の日
こえねばならない ある風景の 夏の日
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