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2013年8月 4日 (日)

マスク・THE・忍法帳-35

「目的は俺だな」
 と、平吉は訊ねた。というより確認したといったほうがいい。
「もし、お前が二十面相という若造なら、そうだ」
 と敵は答えた。
「理由なんてのは、ないよな」
「ナイ。ただ、キサマを拿捕すればいいということだったので、やってきたまでだ」
「俺を生きたまま連れ去るつもりなのか」
「いや、趣向によっては、殺すのもよし、だ」
「趣向ねえ」
 朱色の僧は無表情のまま、また何の構えもとらず、枯れて久しい一本の木のように立っていた。
「あんたの趣向としては、殺すほうが面白い、と、そう考えてるワケだ」
 と、平吉は転がっている死体に目を落として、そういった。
「死ぬも生きるも同じところで生じて滅する。自然(じねん)の摂理とは、そういうことをいうのだ。死は生より始まり、生は死より始まる」
 平吉は、二重回しの上着を脱いで、静かに地面に置いた。
「俺は世の中でキライなものが二つある。ひとつは戦争。ひとつは、坊さんだ」
 と、口に出した刹那であった。どちらが先に仕掛けたのか、朱色の僧はカラダを包んだ布を孔雀の羽根のようにいっぱいに広げ、平吉は地面に置いたはずのトンビを朱色の中心に向けて投げた。
 朱色の布は、千切れ飛んだかのようになって飛散し、舞い上がってそのまま中空に棚引いて浮いた。平吉の投げたトンビも攻撃の武器というより相手の虚を突く意味合いの戦術であったらしいが、姿を消したのは、間宮幽門のほうであった。
 いま、十数枚の長さ一間ばかりの朱色の布が、散らばって吹き流しのように中空の風になびいている。ただ不思議なことに、布は、何かに固定されているのか、風を受けてその身をくねらせてはいるが、その位置から動く気配がナイ。その前方、地上には布を見上げて平吉が手を腰に、苦い顔をしている。
 果たして、その中空の布は虚仮威しや、目眩ましに過ぎないのか、それとも、その布が武器であるのか。たしかに戸沢機関の先兵は布の餌食となった。とはいえ、相手が同じ方法で、平吉を攻撃してくるとは限らない。平吉は、その辺りまでを読んでいた。
 平吉はみえない相手、間宮幽門に対していい放った。
「二十面相に、先手ナシ」
 来るなら来いという挑発である。
「よかろう」
 という、地鳴りのような声が聞こえた。と同時に、中空の布の一枚は、きりきりと絞られて一本の槍状の様相と化し、平吉にめがけて飛んだ。通常であれば、この布の槍を避けて平吉は飛翔するか、受け止めるかしたはずだ。しかし、このような単調な攻撃には何か裏がある。それを瞬時に判断すると、平吉は機敏に前方に向けて駈け出した。
 案の定、槍状の布は、地上に突き刺さるのではなく、いま一度平坦な布状に広がって、さらに回転しつつ、河原の小石を撥ね上げた。まともに対応していたら、撥ね飛ばされるか、身の動きを封じるようにからみついてきただろう。
 平吉は、十数枚の中空の布を下を猛然と走り抜けた。
 と、どういうワケか、それまで留まっていた布は、急に風に巻かれて飛散していった。「さすがだな、二十面相」
 という間宮幽門の声が聞こえた。
 平吉の手には小さなペンチのような工具が握られていた。
「おうよ、あの朱色の布が念力の類で宙に浮いているなどとは、思うてなんだわ」
 どうやら、朱色の布は何処からか凧のように操られていたようだ。その凧糸に該るものを平吉は、すべて切断したのである。
「簡単に切れるものではないが、特殊な道具を持っているのだな」
 と、間宮幽門。
「このペンチの刃はダイヤモンド加工してあるのよ」
 金剛密教の殺人術が、金剛石によって阻止されたのは皮肉であった。とはいえ、所詮泥棒の七つ道具にしか過ぎない。それで敵を攻撃することは不可能だ。
「お前の武器は、泥棒の道具か」
 と、嘲笑うような間宮の声がした。
「いんや、俺の武器なら、そこいら中に転がっているんでね」
 平吉は、河原の小石を一握り掴むと、礫にして河の中に連打して投げ込んだ。礫の飛沫のアト、大きな水しぶきをあげ、間宮幽門が水中からそのまま水面を破って、水鳥の飛翔のように姿を現した。水鳥のようにみえたのは、両手に一枚ずつ朱色の布を持っていたからだ
「潜んでいるなら、そこだと思ったぜ」
 いうなり、平吉は、蘆の群生する川面の傍らに飛び込んだ。ポケットから小柄のようなナイフを取り出すと、蘆を次々に伐採して、さらにその先端を斜めに鋭利に切る。弓矢の矢に似たものが一束出来た。
 間宮幽門は、右手の布を手首の捻りできりきりと絞り、一本の棒状にし、左手の布は広げたまま、ヘリコプターの羽根のようにそれを頭上で回転させ始めた。それが、彼の手を離れて竹蜻蛉のように飛んだ。いったい布にどんな加工が施してあるのか、それは蘆を草刈機のように薙ぎ倒して、平吉を襲った。
 平吉はすでに蘆の林にはいない。河原を駈けると、一束の蘆の矢を間宮幽門に投げた。それぞれが弓から放たれたような鋭い速さで標的に向う。
 間宮幽門は、特に動揺もなく、この矢をことごとく叩き落とした。と、平吉は今度は最初に自分を攻撃してきた布を拾い上げて、これを間宮幽門同様に、きりきりと絞り、槍状にして、構えた。
「小癪な。わしと同じ武器で闘うつもりか」
「なにぶん、貧乏性でね」
 いうが早いか、布の槍は、平吉の手を離れて間宮幽門に投げられた。

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