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2013年8月 1日 (木)

マスク・THE・忍法帳-32

四・死闘二十面相

 何処とも知れぬ洋館の一室であったが、その豪奢な結構は、天井から下がっている大ぶりで、主張の強いガラス細工のシャンデリアからも察せられた。カラダ半身が沈んでしまいそうなソファに、向かいあいながら腰を下ろしているのは、片方は米英いずれかの国の者であり、もう一方はあの風閂の使い手であった。
 外人のほうが流暢な日本語で、風閂のことを「檜垣さん」と呼んだので、風閂の本名が檜垣であることはワカッタ。また外人のほうはその檜垣から「シャーク」という呼び方をされたが、これが本名なのか、通称なのか、コードネームなのかを計ることは出来ない。 話されている内容は『デモクレスの剣』ノートの一件であった。
「あの、遠藤平吉、すなわち二十面相という男、予想以上に手強くてね、私の配下が次々といとも簡単に倒されています。しかし、ノートに関しては未だ尻尾もつかんでいないと思われます」
「それは檜垣さん、あなたの術を持ってしても、倒せないのですか」
「さあ、やってみないとワカリマセンね」
「二十面相が、舞と伴にあるということは、どんなきっかけで、ノートのことを嗅ぎ出すか、ワカッタもんじゃありません。こういうのを、日本では因縁というのですか。あるいは遠くて近き、いや、世間は狭い、ですか」
「いずれにせよ、運命の悪戯ですね」
「ノート製作に携わった者の娘が、よりによって二十面相に近づいていくとはね」
「深謀遠慮、というのはオモシロイものです」
「面白がっていられても、困るのですがね檜垣さん」
「我々の機関としては、二十面相を倒すより、舞を葬ったほうが事は簡単なのですが。コピーが他にも数人、存在するならば、ですが」
「いやいや、それはいけない。コピーはありません。ノート原本自体を損失するワケにはいきません。今後の日米五十年の未来が吹っ飛んでしまいます。何のために原爆を二発しか用いずに、この国を占領したのか意味がなくなります」
「二発、しか、ねえ」
 これにはさすがに日本人としてなのか、檜垣の声も曇った。
「戦争というのは、そういうものです。ひとの命というのは前提として勘定には入りませんからね」                                   「じゃあ、何のために戦争なんぞをするのかと、ふつうの者なら半畳入れるところでしょうねえ。おっと、おワカリですか、半畳入れるの意味は」
「ええ、江戸時代の歌舞伎ですね。まあ、私ども政治家は、ひとの命を奪わずして国を奪うことを外交と称しています。戦争はそのための手段であって、目的ではありません。闘っても勝てないということが相手にわかれば、相手は戦争などしかけてこない。そのための原子爆弾です」
「しかし、それをソ連も所有している。これからも所有する国が出てくるでしょう。けっきょくは原子爆弾も、戦争の抑止にはならない」
「そうです。原爆そのものはそのとおりです。ですから、我が国は戦勝国であるに関わらず、日本に平和国家を差し上げた。原爆どころか、戦争行為そのものを取り上げた」
「憲法9条ですか。しかし、あの条項は今後、物議をかもすでしょう。保守系右派は、独立国家として尊厳を奪われたと吠えるに違いない。日本国民の多くは、日本はもう戦争が出来ない、自国を守れないと思い込んでしまうでしょう。9条が国権の発動を抑止しているなどという高邁なことを、理解、納得する国民がどれだけいるか。おそらく9条をほんとうの意味で理解しているのは、憲法学者と、僅かの国民だけになるでしょう。戦争放棄というコトバだけが独り歩きするに違いない」
「それでいいんですよ。およそ半世紀のあいだは、合衆国が日本の楯になる。その間に日本は経済的繁栄を行き着くところまで追求して、合衆国のbankとなる。これがノートの第一段階として記されているはずです」
 シャークと呼ばれた青い眼は、牙でもみせるようにして笑った。
「そのアトにデモクレスの剣となる、これが第二段階というんですか」
「檜垣さんは、あのノートの中身を」
「読みはしません。そんな権限はナイ。ただの憶測です。しかし、当たらずとも遠からずというところでしょう」
 それには、シャークは答えなかった。その代わりに、日本人檜垣を督促した。
「それで、二十面相をいつ」
「いま、我が黒菩薩の最終最強の精鋭が三名、向っています。ここ一ヶ月というところでしょうかね」
「檜垣さんは、何故、直接、闘わないのです」
「それは、私の外交です。私は彼を生かして手に入れたい。それには、私たちに歯向かうのは無理だとワカラセル必要がある。私の術では、必ず彼を殺してしまう」
「一ヶ月、ワカリマシタ」
 青い眼は立ち上がった。燻らしていた葉巻は、そのまま、灰皿に置かれて残った。
 檜垣は、人差し指でテーブルを二度ほど叩いた。檜垣にしてみても、二十面相平吉の強さは想定外であった。しかし、今度放った刺客がし損じるということはあるまい。とはいえ殺すということも出来ないだろう。互角で、相討ち、今度こそは二十面相平吉も手負いとなる。自分が出て行くのはそれからだ。
 檜垣は、シャークの残した葉巻を指に挟むと、手首だけの動きで、それを暖炉に投げ込んだ。
「バカ野郎め、ノートを手に入れてしまえば、アメリカと我々の共存共栄だ。大東亜共栄圏に勝る、世界支配への第一歩が始まるのだ」
 と、不敵で不吉な呟きをもらして。

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