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2013年8月 2日 (金)

マスク・THE・忍法帳-33

この会談より三日前。弥勒教団の裏組織である黒菩薩本部特別室には、三名の手練が集められた。手練といってもその三名は共通して高齢であった。
「作戦部長どの、いや檜垣さんよ、今更この我々のような老いぼれに何をしろという。我々は全て黒菩薩の教官であった者だ。齢は還暦を迎えている。それを承知の招集ということになるワケだの」
 朱色の布で全身を包むように纏った、剃髪の男がそう、三人に最大の敬意を示すがごとく微動だにせず正座している檜垣に問いかけた。
「たわけたことを申されては困ります。黒菩薩に引退なんぞはありません。もちろん、使い物にならなくなった方々には、戦線離脱の通告命令はいたしますが、ここにお集まりの御三人のことは私は現役と見做しております。いわば開店休業。これまでは、御三方が出張らなくてもカタのつくことばかりだったということです。しかし、今度の相手は少々、違いましてね」
 そう、檜垣は答えた。
「標的は、刺客をことごとく討ち果たしたというのですかの」
 いった口には歯が一本もなかった。中央にどてらのような着物で鎮座している老婆であった。
「おそらく、いくら送り込んでも無駄だという気がしましてね。私としても一気に勝負がつけたい。しかし、その標的を殺したくはないのです。出来れば我々の手駒にしたい」
「それは欲張りな。では、生け捕りに」
 イチバンの小男が粗末な中国服の袖から細い指をみせて、その指を鳴らした。
「そう、願いたいのですが、やむを得ない場合は、殺しても構いません。ただ、その者が守っている女性だけには危害を加えてもらっては困る」
「その女が、デモクレスとかいうノートの所有者なのかね」
 最初に檜垣に問いかけた男がまた訊いた。
「ノートの所有者というより、ノートそのものなんです。ノートの全容は彼女の潜在意識に書き込まれています。これは彼女自身も気付いていない」
 と、歯のナイ老婆が突然笑った。
「ほっほっほ、檜垣源信ともあろう者が、その手下の刺客をもってしても、おなごひとり奪還出来ずにいるとはのう。黒菩薩は堕したかの。それとも、標的が恐ろしい使い手ということかの」
「もちろん、後者のほうですよ」
 と、檜垣も苦笑いをしてみせた。
 それから、すぐに真顔にもどって、
「ともかく、人間を相手にしていると思ってもらっては、失敗しますぞ。かといって猿の類でもありませんがね」
 三人はそのコトバに互いに顔を見合わせた。                   「で、いつまでに」
 朱色の男が檜垣に向き直ると、そう訊ねた。
「一ヶ月以内ということにしておきましょう」
「それはまた、えらく猶予のあることじゃの、ほほほ」
 歯のナイ口が笑う。
「闘ってみればワカリマス」
「よろしい、源信のいう、その男、どの程度の者か、老骨に鞭打ってみますかな」
 中国服が立ち上がった。
 と、檜垣源信が瞬きをしているその瞬間に、三人の老人の姿は、かき消えた。

 節分の豆まきも終わる頃、舞は戸沢機関の保養所に転地して、軽い散歩が出来る程度に回復していた。しかし、依然として、彼女のうわ言の内容は窺い知れない。
 戸沢は、平吉にこう述べた。
「愛染先生のおっしゃるように、彼女の潜在意識に何か重要なものが閉じ込められていることは確実です。とはいえ、彼女に発熱を促してそれを聞き取るワケにもいかないでしょう。何か、引き金になるものがあるはずです。クスリか、催眠術の類か、いずれにしても脳を刺激する何かです。従って実験を試みるのはキケン極まりない」
 平吉は黙してただ聞いていた。
「先だって、脳医学の権威の意見を伺ったんですがね。脳というのはまだまた未踏の分野であるとかなんとか、埒があかなかったですね。しかしながら、入力されているということは、必ず出力出来るはずだという、まあ、考えてみればアタリマエのことも仰ってましたがね」
「愛染院長は、他には」
「ええ、どういうふうに潜在に記録させたにせよ、うわ言でその部分が露呈したということは、結核治療の際に使用した薬剤と、何か類似関係のある薬品を用いた可能性はあるなと、そう」
「ほ~、さすがに愛染先生らしいご意見ですね」                   この件に関しては、平吉は門外漢である。任せておくしかナイ。
 では、さて敵は今後どう出てくる。舞を拉致するにしても、けっきょくのところは二十面相という障壁との格闘になる。何れ同じ。まず、最終的な戦闘を試みるに違いない。今度送り込まれてくる刺客は、黒菩薩の最後兵器ということになる。おそらくはあの風閂と同等の凄腕と相対することになろう。勝負は最終ラウンドに近づいている。平吉には恐れも闘志も、特に思うことは何もなかった。ただ、いち早く血をみる情況から脱したいと願っていただけだ。

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