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2013年8月 6日 (火)

マスク・THE・忍法帳-37

 この様子を、歯の抜けた老婆と、中国服の痩せた男が、河川に懸かる橋の欄干にもたれるようにしながら眺めていた。
「間宮幽門が、子供扱いされたのう」
 と老いた猫のような老婆が呟いた。中国服は、黙っていた。
「陳さん、あんた、倒せるかね」
 と、また老婆が口を開いた。
「檜垣のヤツが、あの男を欲しがる理由はよくワカル。あの男は一種の奇蹟だ。臨機応変な判断、千変万化の技、羽衣のごとく軽く燕のごとく速い。なあ、おりんさん。私は初めて巌流島に向う武蔵の心境がよくワカッタ」
 中国服は答えた。
「巌流島かえ。小次郎になりなさんなよ」
 老婆のコトバの終わらぬうちに、陳と呼ばれた中国服の男の姿は消えていた。
「梅は散った。桜にはまだ速いが、咲かぬかも知れんな」
 老婆も、橋から去った。

 その夜のことであった。
 戸沢機関の本部、会長室にいる戸沢に向って跪いている者が四名あった。
「戸沢機関は、そのような任務を遂行する組織ではナイ」
 戸沢は、やや不機嫌そうに、いましも、何やらいい分を語り終えたひとりの機関員に対してそう答えた。どうやら、何かを直訴したらしい。
「しかし、同士の死はすでに二桁になっております。ここで、ただ辛酸を舐めて臥薪せよというのは、私どもの気がすみません。諜報機関とはいえ、私どもも、多少の心得はございます」
「だから、多少の心得では、どうにもならぬと、いっているのだ」
「かの二十面相の手並み、尋常でナイことは承知です。それと同等にみてもらいたいなどと不遜なことを申しておるのではありません。ただ、私どもにも、仲間の仇を討つ機会を与えて頂きたいのです」
「その気持ちはよく了解したと、答えた。しかし、みすみす自分の部下を死地にやることなどこの戸沢には出来ない相談だ。そういう旧態依然とした、古い主義は棄てるがいい」 と、眉間の皺を濃くしていたひとりが膝をついたまま進み出た。
「先の戦争でも、多くの戦友を失いました。そうしていま、この日本の窮状にあって、またも同じ釜の飯を食った仲間を失った、この血の涙をいったい何で拭けばよいのです。我々とて無策で、無謀に挑むワケではありません。それなりの策を以て、闘う所存なのであります。どうか会長、一度、一度きりでよろしいのです。何卒、我々に命を賭けさせて下さい」
 戸沢は、暫し無言を貫いたが、
「出来ん」
 と、一喝するかのようにいうとその場を立ち去った。
 悶々とした澱んだ空気があったが、ゆっくりと立ち上がった男がいった。
「俺は、今日でこの機関を抜ける。それなら文句はあるまい」
 次々に男たちは立ち上がった。それは同意の合図だった。
「手筈は、如何に」
「今日の、二十面相と朱色の僧侶との闘いを、下流に懸かる橋から観ていた者を、組織の監視班が捕捉している。おそらくは黒菩薩の刺客に違いない。すでに、この二人の行き先は調べ上げた。しかし、いちどきに二人は無理だろう。だが、4対1なら勝ち目がナイとはいえない。まず、チャイナ・スタイルのほうから、ということにしたい。如何」
 四人、声を合わせて「よかろう」と頷いた。
「さて」と、中で最も華奢ではあるが、眼鏡がそうみせるのか知性的な顔だちの男が、多少の微笑みを浮かべて他の三人を順に観た。
「ここはひとつ、理屈で語ることをゆるしてくれ」
 その男の肩を、先程戸沢会長に向けて直訴に及んだ、おそらくこの連中の中心人物であろう、体格のよい、強面するタイプの男が強く叩いた。
「もったいぶるな、中橋。研究班としては、何か成果があったのだろう」
「いやいや、慌てるな。ともかくも二十面相と黒菩薩との闘いにおいて、集められるだけのデータは集めて分析した。まず、両者の身体能力を差っ引くという解析方法を試してみたのだ」
「おいおい、それじゃあ、分析になりはしないんじゃないのか」
 最初に立ち上がった男がそう、いった。
「いや、これは俺の考え出した最新の解析学だ。理論を述べると面倒なので、結果だけをいってしまう。小野、前田、三谷、いいか、日米の大戦の教えたことでもあったが、要するに勝敗を決するのは、身体能力に差がある場合において、その差を埋めて余りある力、即ち、兵器であり、武器だ」
 興味深く三人が、中橋と呼ばれた男に頷いた。
「ここに、我々研究班の開発した二種類の武器がある。ひとつは短針銃。やや銃身の太めの拳銃にみえるが、先端からは、長さ八㍉、髪の毛ほどの厚さの毒針を、一分間に三千本30度の放射状に発射出来るようになっている。カートリッジを取り替えると、もちろん一分以上闘える。それぞれの短針には毒が塗布されてあるので、致命傷にならずとも、掠っただけで戦闘能力は奪える。しかも、この小さな針は鎖帷子をも貫通する、極めて硬度の高いものだ。もう一種のほうも、拳銃のようにみえるが、銃弾が特殊な青酸ガス弾になっている。射程20メートルの位置で炸裂して、青酸ガスを噴出し、半径1、5 mの標的を100%致死せしめる。つまり、命中しなくても、近似的に殺戮可能なのだ」
「どちらも毒だな」
 と、三谷と呼ばれた男が二つの拳銃を手にした。
「そうだ。かつて中国の古武術、拳法の達人はすべて毒殺されているという。いくら身体能力に優れた者、練達の名人も毒にはかなわないという、歴史的な事実が、闘うことの真実を物語っているのだ。ただ、勝てば良いとするならば、これほど強力な武器はナイ。ただ、気をつけなければならないのは、けして、味方に向けて撃つなということだ」
「貰ったな、この勝負」
 強面の小野が卑屈ともみえる笑みに唇を歪めた。
「拳銃は二種、四丁。どちらか好むものを選べ」
 四人の男たちは、それぞれの銃を手にすると、それを懐に入れて、部屋を出た。

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