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2013年8月14日 (水)

マスク・THE・忍法帳-45

「いよいよ、来たか。ともかく、ボスに無線連絡だ」
 チーフの指令で、一人が車内にもどって、現状を報告した。新介も舞もこれを聞いた。「何が起こっているんですか」
 と、舞は新介に訊ねた。
「大丈夫です。張のボスの想定どおりです。張のボスは、舞さんの浅草詣でをそのまま信用したワケじゃありません。こういう事態を頭に入れてのことだったのです」
 無線連絡を終えた部下が、後部座席を振り向くと、こう伝えた。
「このセダンは、特注ですから、ライフルの弾は貫通しません。ともかくここにいて下さい。それが最も安全です」
 ライフルによる狙撃はナイと新介は情況を分析した。しかし、車の中のほうがさしあたっては安全に違いない。ともかく自分は舞の傍を離れないことだ。と、新介は決めた。後方の戸沢機関の車からも数名の機関員が外に出てきた。双眼鏡などを用いて、周囲を索敵している。と、ガス状の薄い霧のようなものが、沸き上がり、それは次第に濃くなってセダンのまわりは真っ白になってしまった。もう、張の部下も戸沢機関の者の姿も霧の中である。
 舞は、強く新介の手を握りしめた。もちろん、この霧は異変である。その異変に恐怖しているのである。
 やがて、新介の耳に唸りや叫びが聞こえ、5分ばかりで、霧は晴れていった。
「窓から外を観てはいけません」
 と、新介は舞にいったが、少々その忠告は遅きにすぎた。
 舞は、車窓から外の様子を観て、我が眼を疑った。周辺の雑草は朱に染まり、ズタズタに切断された手足や首が転がっていたのである。これが、師匠から聞いた真空風閂というヤツか、新介は咄嗟にそう合点した。
 それにしてもなんという残酷非道な術なのか。生きている者はひとりもいない。およそ六体の屍が、何処が誰のものかワカラナイほどに寸断されて飛び散っているのである。いったいこんな凄まじい術から、舞をどうやって守ればいいのだろうか。ともかくは車から出ないことしか、策はナイ。
 霧が完全に晴れてしまうと、フロントガラスを通して30メートルほど先に、二つの影が互いに向かい合いながら屹立、対峙しているのを新介は観た。片方はまぎれもなく師匠の二十面相平吉であり、おそらくもう片方は敵の首魁であろう。
「もう動けるのかい、二十面相」
「おかげさまでね、傷の治りが早いのも取り柄さ」
「今度は、傷では済まないよ」
「そりゃ、そうだろう。あんなものをマトモに喰らったら、一瞬にして肉屋に売り飛ばされても仕方なくなる」
「私は、お前を殺したくないんだ。出来れば一緒にこれからの日本のために闘ってもらいたいのだが、どうだろう」
 冗談でいっているような気配ではなかった。
「いったい、それはどういう意味かな」
 平吉も真面目に相手に問うた。
「『デモクレスの剣』ノートには、日本再軍備、原水爆配備への道程がフローしてある。いったいどういう手順なのかは、もちろん、私も知らない。すべてはあの舞という女性の深層意識に眠っている。そうして、それが独立国家日本としての再建の道でナイことも私には見当がついている」
「独立国家ではナイ、とは」
「講和条約を結ぼうとも、これからの日本はアメリカ合衆国の従属国にしか過ぎない。米国のための亜細亜の砦として、この列島は、ソビエト連邦、中華人民共和国、に対する万里の長城として、太平洋の片隅に位置させられるのだ。しかし、『デモクレスの剣』ノートにおける日本の重工業と軍備の再建の計画は、うまく活用すれば、まさにデモクレスの剣同様、両刃の剣となって、米国にもその切っ先を向けることが可能となるだろう。先の大戦で、日本の神道は米国のプロティスタンティズムに敗れた。日本の天皇制に終止符を打つために、弥勒教団が立ち上げられたといったら、二十面相、貴君はどう思う」
 なるほど、そういう野望があったのか、と平吉は了解した。
「あいにく、俺は無神論、無宗教でね」
「そんな与太ないい分の通用しないことは、貴君が承知だろう。ヒロシマ、長崎に原爆を落すとき、トルーマンは自国民になんといったか、アメリカは神の造りたまえし最強の国だと演説したのだ。いいかい平吉くん。アメリカ合衆国というのは世界一巨大な宗教国家なのだ。それがこれから、ソ連と中国というマルクス主義国家を相手に鍔迫り合いをするのさ。勝ち目がどっちにあるか、おそらくそれは『デモクレスの剣』ノートに記されてあるはずだ。私はそこまで察しをつけているんだ」
「すると、あんさんの目的は」
「日本の、真の独立だ。世界戦略のキャスティングボードを日本が握るのだ」
 そのとき、平吉は如何なる理由でか、鬼のような形相になった。それまでの口元の不敵な笑みも消えて、燃えさかる地獄の炎に、亡者を突き落とすかのような羅刹の瞳を風閂檜垣源信に向けて、睨み据えた。
「おのれは、先の戦争で、人間がどんなふうに死んでいったのか、もう忘れたか。生き残った人間がどんなふうに這い上がったか、観てこなかったか。俺は幾十人の幼い子供たちが、地と肉を土に染めてのたうち回ったのを、この眼を観た時、ひとであるのをやめた。いまはその名残すら留めぬようになった帝都の瓦礫に、黒く灰となった屍を観た時、この世界というものが、取るに足らぬと厭世した。しかし、その俺に、すがるように救いを求めて、俺を抱きしめた者のあった時、真に憎むべきものに辿り着いたのだ」
 その言を聞いて檜垣はせせら笑った。
「甘いわ、二十面相、遠藤平吉。その地獄とやらに、貴様を送り届けてやるわ」
 檜垣は、着ていたジゃンパーを脱ぎ捨てた。上半身は裸体であった。しかもふつうの裸ではナイ。左腕の肩あたりから肘あたりまでが、鋼鉄の造作物になっていた。隆々とみえた腕の一本は、根元から作り物であったのだ。
「そうか、風閂はそこに仕込んであったか」
 平吉も身構えた。
 檜垣の鋼鉄の左腕が唸って振動し始めた。
「檜垣源信というらしいな。真空風閂なるけったいな術、さっき拝見させてもらった。沖縄では、霧の中での突然の出来事に唖然とするばかりだったが、今度は二度目だ。張旦那の部下と戸沢機関の連中には不幸だったが、ありゃあ、抵抗のしようも救いようもナイ。殺戮圏内から離れて観察するのがやっとだっぜ」
「霧の中をよく、観ることが出来たな」
「霧といっても、所詮は霧煙、何処か一部を吹き飛ばして覗ければいい。モーターばかりは威力のある扇風機で、風閂の殺戮の様子は一部だが覗いて観ることが出来た。愛染博士からのヒントどおりだったよ」
「仕組みがワカッテも、このワザに立ち向かう術はナイぞ」
「そういうことは、ナイんじゃ。いまに原水爆に立ち向かう新兵器ですら登場するに決まっている。戦争とはそういうもんだ」

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