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2013年7月28日 (日)

マスク・THE・忍法帳-28

 筒からは投網のようなものが、空間に広がった。ふつうの者ならその網にからめ捕られていただろう。しかし、平吉は、六間ばかりを後方に飛翔した。
 男は、苦笑いのようなものを頬に浮かべると、投網を棄てた。
「なるほど、四方鞭がこうもたやすく屠られたのもワカルな」
 男は、先の刺客の死体と、投げ出されている武器、四方鞭に一瞬視線をくれたが、次に黒装束の懐から銀色の棒状の道具を取り出した。
「いっぱい、出てくるんだの」
「これでオワリだよ。これはな、わしの開発した武器で、八節棍というものだ」
 どういう仕掛けなのか、一本の棒が、パラパラと、繋がったまま短い八つの棒に分かれた。最先端の棒は先が鋭利に尖っている。おそらく、ある時は鞭のごとく、ある時は槍のごとく、ある時は鎖鎌の鎖のように、攻撃してくるものらしい。対する平吉には、武器らしいものは何もナイ。
「お主の武器は、終了したのかね」
 鎖鎌の鎖分銅のように、頭上で、棍が回転する。音をたてて唸りながら。
 平吉は、先程の男が使っていた鞭のうち、二本を拾って手にした。
「拝借というところだ」
「舐めたことをするヤツだな。その鞭が簡単に使えるとでも思うのか」
「使い方なら、さっき観た。四本は無理だが、二本なら、いけそうだ」
「しゃらくさい」
 鎖状の棍は、一本の棒になって、平吉の胸元に飛んで来た。投げられたワケではナイ。そんなふうにみえたのだ。
 平吉の鞭は、一本は黒装束の足下を薙ぎ払い、一本は袈裟懸けに振り降ろされた。黒装束は一間ばかりを跳躍して、棍を平吉の頭部に突き出した。今度は槍術だ。
 着地して、黒装束は眉間に皺を寄せた。先程の突き、いまの突き、当っていなければならぬ。避けた気配もナイ。どうしたことだ。思案の間もなく、鞭が、まるで四本あるかのように上下左右から襲ってきた。
「まさか、二本のはずが」
 平吉の早い動きは、二本の鞭を四本分に使っているのだ。
 渾身の突きを黒装束は試みた。と、その棍は一本の鞭にからめ捕られ、もう一本の鞭は予想だにせぬ速度で、黒装束の後頭部を撃った。
「何故、後ろから」
 ワカラヌといった顔つきが次第に苦悶の表情に変わった。後頭部の頭蓋骨は陥没させられている。
「なんという・・・」
 黒装束は、膝を折るようにして座り込むと、そのまま、前のめりに伏した。
 平吉は、鞭の一本を回転させながら投げたのである。そのしなりが、黒装束の後頭部を撃った。まさか鞭を投げるとは、黒装束も思ってはいなかった。
「恐るべし、二十面相・・・」
 いって、黒装束は息絶えた。
 その死に顔を観て、平吉自身は顔を背けた。
「人殺しは、イヤだの」
 唇を突き出して、小さくフッと息を吐いた。
 中庭に、人が集まって来た。
「やんごとなき事情により、私闘を致しました。庭を血で汚したことは謝ります」
 医師や看護婦、職員たちが立ち回って、患者に病室に戻るように指示し始めた。白衣の上に分厚い首巻きをした髭の老人が、年増の看護婦を従えるようにして、平吉に近づいて来た。たぶん、院長と看護婦長なんだろう。
「窓の向こうから、ガラス越しに観ておりました。みごとな闘いぶりでしたな。わしは、ここの責任者で、院長の愛染と申します。こちらは婦長の春日井です」
「春日井洋子と申します」
「ああ、どうも、私は遠藤平吉というケチなもんです」
「ここに、何方か、療養されてらっしゃるんですか」
 色白で、さぞかし二十年ばかり前は療養患者の噂にもなった、麗しき女性であったろうと、そんな名残の、凛々たる瞳の白衣の天使がそう訊ねた。
「壺中舞という女性です」
「ああ、あのめずらしい名前の方ね」
「その女性の見舞いにしてはえらく派手なご登場でしたな」
 食えないな、こやつは、と内心、平吉はその白髭の院長にそんな印象を持ったが、話のワカラヌ者でもなさそうだとも、同時に判じた。
「いやあ、お姫さまをお護りするのはタイヘンでして」
 と、誤魔化し半分の薄笑いをして、平吉、頭を掻いた。
「あの、療養者については、少々お話したいことがある。ちょっとわしの書斎にでも参られるかな」
 いうと、老院長は踵を返した。春日井は、職員に命じて、死体の処置を始めている。平吉は、有無をいう間もなく、老院長のアトに従った。

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