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2013年7月25日 (木)

マスク・THE・忍法帳-25

血が流れ過ぎている。そんなことに怯む平吉ではナイが、望んでいることでもナイのはもちろんのことだ。『デモクレスの剣』ノートの在り処は、依然として謎だ。次々と刺客がおくられてくるだろう。ともかくロール・プレイン・ゲームのように、あの真空風閂の使い手まで辿り着かねばならない。おそらくは、沖縄には彼はもういないだろう。組織の異分子を手なづけて、あの山の麓の闘いのようなことを仕掛けさせるか、粛清するか。何れにせよ、ノートについては、風閂まで行かねばならぬ。といって、勝算のある相手でもナイ。あの不思議なワザをどう防いで、どう闘うか。
 そんなことを腕組みして考えているワケではナイ。場所は千曲川の支流である犀川の岸辺。いま当て身を喰らわせて寝かせつけた、例の居合の女性が足下に転がっている。その師匠であるらしい、白い着流しの男が、同様に白い羽織りを脱いで地面に置いた。裏に縫われた白虎の刺繍が垣間みえた。
 眼も白濁しているからには、白内障で眼はみえぬようだ。そういう族を相手にしながらも、平吉は、先程のような思案をしていたのだ。
「二十面相、わしの剣は身斬れんぞ」
 盲目の着流しが兵児帯に仕込みを差した。右手が柄にかかる。
「いい、ヒントじゃ」
 と、一言、平吉。
「なにぃ」
 着流しの剣士は跳ねて雪駄を脱いだ。
 無謀にも程があると、思えたが、平吉はズンと剣客に近づいた。いつでも斬れる距離に入ったのだ。これには、相手のほうが少々動揺した。
 と、そのスキに、平吉はさらに踏み込んで、左手は相手の兵児帯を掴み、右手は、相手の柄にかかった手を握っている。もし、盲目の男が眼にハンディがなかったら、コマ送りのような速さで平吉が自分に密着するのがみえただろう。
 刀を抜いたのは、平吉である。抜きながら、兵児帯を掴んだ左手で、男を投げた。たぶん柔術のワザに違いない。
 男は、なんとか、反転して着地した。
「海軍仕込みの大東流合気柔術でな。明治時代から伝わる古武術らしい。たしかにその師匠にかかると、大の男が数人いっぺんに吹っ飛んでいった。ところで華麗なぶん、修業が難しいようで、けっきょく体得したのは俺だけじゃったが」
 平吉の手には相手の刀が握られている。それを鑑定でもするかのように眺めると、平吉はこういった。
「仕込みの上に仕込みだな。柄の部分で刀身が二寸ばかり変化させられるように、仕掛けがしてあるんだの。なるほど、これでは、斬られたら、身斬りは出来んかったじゃろ」
 大胆不敵もここまでくると、放埒である。
「き、キサマッ」
 憤ってみても仕方がないが、まるで子供扱いされたことに、盲目の剣客は、女弟子の師匠としても、恥辱。真っ赤になって湯気を出した。
「この女剣士が、俺を仇というておったが、いまは、おぬしらの団体さんと俺は戦をしている最中だ。戦争に仇もカエシ(復讐)もないと思わにゃな。ところで、おぬしは、黒菩薩のどちらについている」
「何の話だっ」
 負けたくせに、威勢のいい声だ。
「沖縄で、俺と和解を申し込んだ、弥勒教団の連中があった。ことごとく俺の目の前で、真空風閂というワザで殺された。五十余名がほとんど一瞬で、肉塊になった。あれは殺人術の域を超えている。知ってるかな、そやつを」
 盲目の剣士は、しばらく黙したが、
「真空風閂、その者は黒菩薩が沖縄戦作戦においての、隊長、あるいは現在の弥勒教団沖縄分院情報局の局長。おそらくその男だと思うが」
「あんさんは、その男の敵か味方か」
「もともと、黒菩薩は暗殺集団だが仕事でしか集団は組まぬ。ただ、沖縄の場合は戦線におくられた者は戦時戦闘員として集団で行動したようだ。わしは、いまはこの娘と風来の身で、何れとも敵でも味方でもナイ」
 そういうと、男は、女剣士を担ぎ上げた。
「おい、帰るなら、刀を返すぞ」
「このような負け方をしたのは初めてだ。信じられないとしかいいようがナイ。お前は天狗の血でも引いているのか」
「天狗ねえ。さあ、どうかな。俺の親父は天才といわれた泥棒だからな。ああ、それはそうと、俺の気配というのは、耳鳴りがしてワカルらしいが、それを誰かに仕込まれたとしたのなら、その女性(にょしょう)と一戦交えたさいだと思うが、その女、俺に何をしたんだ。それだけは気づかなかったぞ」
 盲目の剣士は、初めて頬をほころばせた。
「それは、術というものではナイからな。この者、未熟にして黒菩薩に在るは、お前のいうその耳鳴りがこさえられるからだ。何故かは、誰にも、わしにもこの者にもワカラヌ。この者の持つ波動が相手に移るのだ。僅かに10decibel の音波がな。ふふふ」
 盲剣士は平吉に背中を向けた。その背中に、平吉は、羽織りを投げかけた。
「いい羽織りだ。残しておくにはもったいない」
 盲目の剣士と弟子の女剣客が消えても、平吉はその岸辺に立っていた。とはいえ今度は考え事ではナイ。
「あの師匠に近づいた刹那、仕込みの秘密を俺に教えたのは、何故だ。我が輩が斬られるとでも思ったか」
 独り言ではナイ。ちゃんと答えが返ってきた。
「いや、あれでも、あの二人は祖父と孫でね、ひょっとしてどちらかが命を落すのは忍びないと、私でもそういうふうに思うときがあるんだよ」
 声の主は沖縄の例の局長だ。ただし、奈辺から聞こえて来るのか、本体の気配はナイ。平吉にもその居場所はワカラナイ。
「つまり、あの爺と娘の殺し屋は、それほどの腕ではナイ。ただ、娘の特殊な能力を利用したかっただけでね。それは、祖父の口から、いま聞いたろ。さて、二十面相。きみの捜し物は、私を倒さない限り手に入らぬ。しかし、私にまで至るには、少々、茨の路を歩いてもらわねばならない。我が黒菩薩の精鋭は、いまやきみを倒すことのみに、持てるワザのすべてを賭けている。二十面相、きみの歩む路は、血の絨毯が敷いてある。そうしてきみのくぐる門は、地獄の門だと知れ」
 気配が一瞬、感じられ、それは即座に消えた。
「俺に墓はまだ要らぬ」
 と、吐き捨てるように平吉は気配が消えた方向にいい放った。
 まるで、何かの決意でもあるかのように。

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