無料ブログはココログ

« マスク・THE・忍法帳-3 | トップページ | マスク・THE・忍法帳-5 »

2013年7月 4日 (木)

マスク・THE・忍法帳-4

「ひとおもいに即死がよいか、それともいたぶられての死に方か、選ばせてやろう」
暗闇からの男の声はなおも続いている。
「長屋に火をかけたのは、お前らだな」
やっと、平吉が男に応えた。
「わしの仲間に火の好きなヤツがいてな。というより、ひとの燃えるさまをみるのがたまらんという、いわば、キジルシなのだが、屠り火というふうに呼ばれている。しかしお前は、その者には逢えぬ」
「屠り火、憶えておこう」
平吉は、話ながらも、まだシシンという武器を凝視している。というか、それを撫でたり握ったり、まるで、調べ物をしているふうなのだ。
「憶えておいても無意味だというただろう」
と、次の瞬間、鉄線がビィィンと震えるような音がした。
平吉は、いまだ、暗闇の中の男に背を向けたままだ。
と、そのまま一寸(いっすん)ばかり、平吉の頭が動いた。
金属音は、今度は、平吉のすぐ手前で聞こえた。
男の武器、シシンが、平吉の前の瓦礫に突き刺さったのだ。
無論、敵は、平吉の後頭部をめがけて武器を投げたに相違ない。
つまり、命中率100%であるはずの武器、シシンが的れたのである。
いや、もちろん、平吉によって避けられたというのが正しい。
「ウッ」という、息を飲む声が聞こえる。シシンが避けられたことを驚いている、相手の声である。
「びっくりしたかい」
ノンシャランとした平吉の声が、素人の目にはみえぬ、闇の中に向けられた。
「命中率が100%とかいうたの。どうもこのシシンという獲物は、ストレートに飛ぶようだの」
平吉が、そういっている間に、ビィィンという音が数回、平吉を襲った。平吉はほんの少しずつ、カラダを動かしただけだったが、平吉の急所に向けて投げられたであろう、相手の武器、シシンは、すべて外れて地に刺さった。
「あのな、おっさんよ。命中率100%ということは、マチガイナク、的に向かって飛んでくるということじゃのう。もし、一寸の狂いもなく飛んでくるなら、こちらが一寸動けば避けられる」
「バカな。そんなことは人間には出来るはずはナイ」
あきらかに動揺している声がした。
「それが出来るんじゃな。飛んで来るモノは風をきる。おまけに投げた瞬間に、僅かながら金属の震える音がする。それだけあれば、俺には充分なんだ。ともかく、真っ直ぐにしか飛ばないということがワカッタからな」
そういうが早いか、平吉は手にしているシシンをあらぬ方向に投げた。
シシンは闇に消えた。
それからすぐに、ウッといううめき声がして、何かが地に伏す音がした。
「ちょっと使い方を変えると、いまみたいになる。という、俺の声はもう聞こえないだろうけどな」
いったいナニをしたというのか。確かにシシンと名乗った男は、平吉の前方の暗闇の中で絶命していたのである。
平吉の背後の瓦礫の影がぬうっーと、立ち上がった。
「みていたのか」
と、その影に平吉がいう。
「私の手助けなど要らぬとおっしゃったワケが、よくわかりました。あなたは天才だと聞かされていましたが、いいえ、あなたは化け物です」
その声には聞き覚えがあった。声の主は、あの舞と名乗った女だ。
しかし、女の姿はナイ。ただ、影があるだけだ。
「ああいう凶器を使う人殺しが、アトどれくらい、『黒菩薩』にはいるのかねえ」
と、平吉が、影に訊ねた。
「アト、三人は、その者と同じくらいの手練(てれん)がおります」
「屠り火とかいうのもその中にいるのか」
「はい」
「俺なんかの手助けをするより、長屋のほうをくい止めてもらいたかったな」
「申し訳ありません。一部の人々を防空壕へ移すのがやっとのことでした」
「ああ、そうかい。助けはしてくれたんだ。いや、ありがとよ」
平吉の背後で影がゆれる。
「ところでねえ、お姉さん。いや、舞さん。ちょっと訊ねるが、いまのような手練がアト三人『黒菩薩』にいることを、どうして、あんたが知っている。というよりも『黒菩薩』の存在を知っているのはどうしてだ」
影が動揺するのを平吉は察知した。
「ひっぺがさないとな、いけないよな。あんたのボスのあの『リュパン』のお嬢さんは、『黒菩薩』の存在を知ってて、俺を誘い出したんだね。いや、まあ、いいんだ。いまとなっては、長屋の連中の弔い合戦だ。お宝なんざ、どうでもいい」
それを聞いたか聞かなかったか、影は消えた。

同じ場所。
一刻、つまり二時間ばかりアトに、シシンの屍体のまわりに立つ者が三人あった。
「喉仏から、後頭部をシシンの武器が貫通して、刺さったままになっている」
ひとりの小男がひきつるような声で、そういった。
「シシンが何故、自分の武器で」
と、野太い声がした。別の男だ。
「武器が、シシンの武器が、中央で曲げられている」
と、屍体を調べている小男がいって、顔をあげた。
「と、すると、ひょっとして相手はシシンに向けて、この武器を真っ直ぐには飛ばさなかったのだな」女の声がした。三人目だ。
「よくはワカランが、シシンの針の中央に曲線をつけて、回転させながら飛ばしたようだな。つまり、シシンは曲線を描いて飛び、喉仏から貫通したようだ。西洋にブーメランというものがあるらしい。曲線を描いて獲物を倒すと聞いた。ひょっとすると、そこからアイデアを思いついたのも知れん、しかし」
と、しゃがんでいる小男はいいよどんだ。
「そんな、瞬時にシシンの武器をそのように細工して、喉元から後頭部を貫通させるように投げ返すなどと」
また、女の声がした。今度はその声が驚きで震えをおびているのがワカッタ。
「いずれにしても、侮った。二十面相とやら、ただの泥棒ではナイ。シシンほどのものが、こうも簡単に屠られるとは。オロク(死体)はわしが始末する。二人は弥勒さまに、このことを知らせに走れ」
野太い声の命令で、二人は消えた。
「おのれの武器でおのれが倒されるとは」
野太い声の主は、シシンの屍体を人形でも持ち上げるように軽そうにかつぐと、これまた、闇の中に消えた。

« マスク・THE・忍法帳-3 | トップページ | マスク・THE・忍法帳-5 »

ブログ小説」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/558792/57688196

この記事へのトラックバック一覧です: マスク・THE・忍法帳-4:

« マスク・THE・忍法帳-3 | トップページ | マスク・THE・忍法帳-5 »