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2013年7月16日 (火)

マスク・THE・忍法帳-16

それらは平吉の肩をかすめて、土にめり込んだ。
 大きさはパチンコ玉の半分程度。形状は楕円形、素材は鉱石か、金属。礫である。飛来速度は200㎞・second。それを捉えて分析したのは、平吉の動体視力だ。
「面白い武器やの。かわされても三回、連続で投撃するということは、まだ別の飛ばし方があるということなんやろうが、どうなんじゃ、牧師さんよ」
 牧師さん、と平吉はハッキリいった。
 ゆらりと影が、さとうきび畑から現われた。
「よく、ワカリマシタね。何故です」
「なあに、ハッタリよ」
 おそらく、そうではあるまい。何か平吉には確信があったのだろうが、現われたのは、さっきの教会の牧師であった。黒いハイネックセーターにゆるいストレート幅のズボン。これも黒い。両腕を組んで、さっきの低姿勢とは正反対だ。
「あんたが二十面相とかいう使い手かね。本土のほうでえらく暴れたそうじゃないか。何れこっちに飛び火するかもと、そういう報告を受けたが、こんなに早くとはなあ。いったい何の目的かは知らんが、逢ったら殺せという命令だ」
「俺のほうからも一つ聞きたいんじゃが、俺が二十面相と、何処で見破ったんかの」
 これは、平吉にも不思議なことであった。
 礫の牧師はクククっと笑うと、
「冥土の土産に聞かせておいてやろう。我々『黒菩薩』にあっては、し損じた相手にはある目印をつけておく。つけられた本人は、その目印には決して気づくことはない」
 というや、礫が飛んできた。礫は必ず三つ投げられる。それにはワケがあると平吉は察したが、なるほど、今度はひとつは直球、他の二つのうちひとつは落ちるカーブ、もうひとつはスライダーである。これは、如何なる平吉も避けられぬ。避けられぬなら叩き落とすしかナイ。平吉は、その三つの礫をことごとく叩き落とした。平吉の手にだらんと風呂敷だか、手拭いだかのようなものが握られている。
「惜しかったなあ。狙いは見事じゃったが」
 地面に片膝をつく恰好で、平吉はいった。
「それは、鎖帷子か」
 と、牧師が、平吉の手の武器をそう名指した。
「ビンテージもんでな。江戸末期の職人さんが編んだものらしい。実に細かな鎖で編まれた腹巻のようなもんよ。これを腹に巻いておくと、ちょいとは冷えるが、刃物で腹を刺されても、貫通はせん。それに、いまのような使い方も出来るんよ」
 まだ投撃してくる気かね、と、そんな意味を含んだ平吉のコトバだった。
「なるほど、本土の仲間が倒されたのもワカルな。その俊敏なカラダの使い方は、鍛練だけで出来るもんじゃない。きさま、天性の素質を持って生まれたな」
 いうと、暗闇の中、牧師のカラダがぐらっと、崩れた。そのまま両膝を地面に着いた。「いつのまに、投げた」
 と、牧師がいった。
「さあてなあ。こっちも反射的にカラダが動くもんでのう」
 牧師の額を割るように、鋭いナイフが突っ立っていた。もちろん、平吉が投げたのである。牧師のほうは攻撃に専念していて、まさか、そんなに早く相手の反撃をくらうとは予想だにしなかったろう。
「噂でだけだが、沖縄戦では、戦闘員ではナイ民間人が多く殺戮されたと聞いた。ひょっとすると、それはお前ら『黒菩薩』の関係していることじゃないんか」
「二十面相、きさま、何をしにこの島に来たのだ。まさか、民衆の敵討ちでもあるまい。何が目的だ」
「それはな、ナイショ」
 牧師のカラダは前のめりに突っ伏した。
 平吉は牧師の黒づくめの屍体に歩み寄ると、額からナイフを抜き取って、血を拭った。「血はイヤなもんやの」
 と、いうや否や、咄嗟にそのナイフを後方に向って、平吉は投げた。ナイフは数秒を待たずに平吉のところに投げ返されてきた。平吉は、これを受け止める。
「まだ、誰かいるわけか」
 平吉は全速力で、路を駈けた。追いて来る。間隔を保ったままで、平吉を追ってくる者がある。平吉は、そきまま横に飛んで、さとうきび畑に潜った。同様に追尾する影もそうしたようだ。
「さっきの牧師さんよりは腕のたつお方らしいの」
 しばらく応答はなかったが、やがて、沈黙を低い声が破り裂いた。
「遠藤平吉くん。帝国日本が、大東亜戦争を始めた理由を知っているかね」
 奇妙な質問といえばそうであった。第一、この場にそぐわない。
「貴君にしても、まさか大東亜共栄圏、八紘一宇などというスローガンを信じていたワケじゃあ、あるまい。帝国日本が欲しかったのは、蘭印の資源だ。石油だけでも、年間八百万t。当時の日本の需要量が六百万tだからねえ」
 蘭印というのは、オランダ領であったインドネシア、ボルネオ、フィリピンのことである。確かに、ほんとうの大東亜戦争の目的は資源調達であった。ここに資源を求めなければ、日本は枯渇する運命にあった。大日本帝国は、満州、朝鮮、台湾と樺太の一部を領内に占めていた。そこから中華民国を南下して、領土を広げ、さらに太平洋においては南はソロモン諸島、北はカムチャッカまでを支配する計画であった。
 何故、太平洋を領海にしなければならないかというと、もちろん、資源輸送の安全を計るためである。しかし、姿なき敵のレクチャーは何を意味するのか。平吉の頭脳は忙しく考えた。
「何処にも正義などというものはナイ。日本は神国、天皇陛下という現人神の国だが、アメリカもプロテスタントのキリスト教国だ。もし、神に正義があるとすれば、今回の敗戦は、八百万の神々が、一神教であるキリスト教の神に敗れたということになる。トルーマンはヒロシマに原爆を落すときに、演説したそうだよ。アメリカ合衆国は神が造られた最強の国だと。なんのことはナイ。あの大陸には、英国人が移民したとき、すでにインディオが原住民として生活を営んでいたのだ。それを殲滅して、国を建てた。キリスト教のプロパガンダである愛とやらも、一文の価値もナイ。平吉くん、貴君は、我々『黒菩薩』や『弥勒教団』が、陸軍中野学校の単なる裏部隊であるかのように錯覚しているようだが、我々はそんなチンケな組織ではナイ。江ノ島の活躍は私の耳にも入っているが、江ノ島の本部は、世の中をあざむくための仮の姿だ。こんな沖縄くんだりまでご苦労なことだと思って、それだけのことは教えておいてあげるよ。貴君とはいずれ、相まみえるだろう。それを楽しみにしている」
 気配は消えた。そうして、牧師の屍体もまた消失していた。

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