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2013年7月28日 (日)

マスク・THE・忍法帳-28

このデブ男、手をポンと叩くことによって、音こそ出ないが、ある衝撃波を前方に向けて撃ち込めるらしい。それが修練のたまものか、自然に身についていたものかはワカラナイが、いまのところ、平吉にもこれを打ち破る方法は見当がつかない。
「次は、お前が粉々になる」
 と、男が手を撃とうとした刹那、極めて細い鉄線が一本、平吉の手の中から、蜘蛛の糸のように飛び出すと、男の右手にからみつき、男がその反動でよろめいている間に、平吉の手にあったワイヤーは、彼方の木の枝に結わえられた。つまり、男は手と手を撃ち合わせることの出来ない状態にさせられたワケである。
 なるほど、これなら、衝撃波をかわすまでもナイ。
「こ、このヤロウ」
 と、男のいう眼前に、もう平吉の姿は無かった。いまは、相手にしている場合ではナイという平吉の時間的理由による判断であったろう。
 無論、平吉の用いたワイヤーは、ひとを屠るための道具でも傷つけるための道具でもナイ。それは、家屋の塀をよじ登るための泥棒の手道具である。しかし、平吉にかかれば、それも一瞬にして殺傷能力を持つ武器となる。その例が次に登場する。
 二百メートル先に、二人の人影が、視えた。サナトリウムとは目と鼻の先である。ここで平吉は戸沢機関の要員を倒して出撃した黒菩薩の手の者に追いついたことになる。それは、平吉によってサナトリウムまでの近道にあたる山の間道が、調べつくされていたからに他ならない。
 しかし、敵も並々ならぬ手駒とみえて、平吉の追撃に気づいたようであった。そこで、一人が平吉を阻むために残り、もう一人がサナトリウムの方向に急いだ。しかし、平吉は自分の行く手を阻むための要員の前から忽然と消えたのである。もちろん、違う間道に入ったのだ。平吉はサナトリウムに向った黒菩薩を急追する。この辺りの駆け引きは、さながら戦場の戦術的な兵の動向に似ていた。兵は詭道なり。いや、平吉にあってはそれは常道というべきかも知れない。
 黒菩薩の先陣が、サナトリウムの鉄門を抜け、ちょうど中庭に至った頃、その男に例の耳鳴りが聞こえた。まさか、とは思ったが、振り向くと平吉が屹立している。
「きさま、こんなに早く。いったい」
 もちろん、そんなことを説明しているほど、平吉も呑気ではナイ。平吉の両手が交差するように動くと、ワイヤーが黒菩薩の男の手首と足首に巻きついた。平吉は黒菩薩の男の動きを封じたのだ。
「奇妙な武器だな」
 と、黒菩薩の男はいった。
「あんさんらが、使いなさる程のけったいなもんでもナイ。これは、泥棒の七つ道具の一つで、高所に昇るさいに用いる鉄線じゃ」
「なるほど、それで、俺を捕縛したというワケか」
 黒菩薩の男は、それでも余裕のある答え方をしている。おそらくは、手と足に巻きついた鉄線など、たやすく断ち切れるだけの術があるのだろう。
「きさまの鉄線と、俺の四方鞭と、どちらが勝つか、やってみるか」
 と、いっている間に、鉄線は断ち切られた。
「やっぱり、屋根昇りの道具じゃダメか」
 と、平吉は苦笑した。
 男は、鞭を片手に二本ずつ持って立っている。
「鞭か、アタルと痛そうだの」
 その平吉のコトバが終わらぬうちに、男の手の鞭は縦と横にしなって空気を斬って音をたて、平吉を襲った。なるほど、四方鞭。上下左右から鞭が襲ってくる。まるで生き物のように自在にしなりながら、いったい四本の鞭をどう扱っているのか、四方向からの攻撃が一撃でやってくるのだ。逃げ場はナイかのようにみえた。
 しかし、平吉は、カラダをくるくると回転させながら、その鞭の隙間を、かいくぐっているのである。
「チッ、すばしこいっヤツめ」
 鞭は、前後左右の空間を四方向から攻めている。叩きつけられたと思えば、横殴りに、また跳ね上がって、さらに斜めに振り降ろされている。しかし、その一撃も平吉にかすりもしないでいる。恐るべきは平吉の体技。
「こ、こやつ」
 と、平吉は一瞬の間隙に、右手をフェンシングの突きのように、鞭の男に向けて差し出した。
 あの、鉄線は、平吉がカラダを回転させながら鞭を避けて飛び跳ねているうちに、二本が捩じれるように寄り合わされて、一本の鋭く細い剣のようになっていたのだ。それは、いましも鞭の男の喉を突き抜いている。
「なんという、・・・」
「すまんな、こっちも必死なもんで、手加減が出来んのじゃ」
 平吉が鉄線を手元に引き寄せた。黒菩薩の男の喉から血飛沫があがって、男は中庭の地べたに倒れた。
 と、平吉待ち伏せ役の、もう一人の黒菩薩が、この時、追いついた。男は仲間の死骸に一瞥をくれたが、さほど驚いてもいないのは、こういう修羅場を幾度となく経験しているせいだと思えた。
「聞きしに勝るということか」
 と、その男はいった。黒装束に黒い鉢巻き。サングラスを装着している。
 今度は何だ。平吉は、スチール線をその場に棄てた。持っている道具と、仲間の死体の傷から、鉄線の用い方は看破されよう。二度同じ手は使えない。そう平吉は判断した。
「女をいただいていくには、どうしてもお主を倒さねばならぬらしいな」
「それが、ちょいとばかり難しい」
 と、平吉はお道化ていったが、その姿勢に隙はナイ。それは相手も同じだ。
 しかし、男は口を滑らせた。やはり舞を拉致しようとしているのは間違いない。
 男は、腰に下げている筒のようなものを手に取った。おそらくはそれが殺しの道具であるはずだが、予測は不可能に近い。
「まさか、火吹き竹ではあるまいね」
「戯れ言は、そこまでだ」
 男は筒を頭上に構え、そのまま振り下ろした。

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