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2013年7月 6日 (土)

マスク・THE・忍法帳-6

江の電、正確には江ノ島電鉄は、鎌倉から藤沢まで、二輌連結の電車を走らせている。途中、七里ヶ浜や由比ヶ浜などの名所を通るが、観光客と、通勤、通学客の乗り合わせる雑多な電車の中は、べつに東京の都電と変わりはナイ。
ただ、この電車は、鎌倉という町にむかしから住んでいる一種の生き物のように、家々のあいだの細い路地を這い回り、大通りへ出てもイチバン威張っている。
『博愛弥勒教団』とは、よくもつけやがったな、と平吉は、平穏な空気漂う街並みを車窓から覗きながら、思う。
江ノ島で下車。
滋賀県のびわ湖に浮かぶ竹生島もそうだが、こういう適度な大きさで、陸地からの地勢のいい島には、むかしから、宗教関係の建築物が数多く建てられた。神道、仏教、なんでもござれだ。死んで神となった人間だって奉られている。
終戦近く、この島には特種な防空壕が掘られた。皇族のための避難所とでもいうべきか、その防空壕をどうやって手に入れたのか、西武鉄道が皇族の土地を買いあさって、プリンスホテルを建てたのと同じような、札束で頬を撫でる手段しかあるまいが、たしかに、その防空壕を増改築した建物が存在した。『博愛弥勒教団』の本殿である。
これより、敵陣に突入する。
そうするしかあるまい。
死中に活を求める、それしか手段はナイ。
たしかに、『黒菩薩』にしても、まさか、平吉が特攻まがいに陣中に単身乗り込んでくるとは、夢にも思っていなかった。
彼らは、東京に、平吉を求めて捜索の真っ最中だったのだ。
平吉は、表向きに設けられた『博愛弥勒教団』の飾りだけの建造物から、すぐに、裏へと抜ける、つまり『黒菩薩』へと通ずる回廊をみつけ出した。
もちろん、そこには表にはいない見張りの者が立っていたが、その者がエッという声を発するよりも早く、平吉の指はその者の頸動脈を突いて彼を倒した。何か特別な経絡のツボでもあるのだろう。倒れた見張りは泡を吹いている。
「死にゃあ、せんよ。いっときばかりは苦しいだろうがの」
防空壕を改造した、薄暗い回廊がつづく。
常人なら灯(あかり)なしでは歩けぬところだが、平吉は、まるで昼日中の歩道でも歩くかのような足どりで進む。
と、突然、視野が広くなる場所に出た。何らかの会議にでも使っているのだろう。
そこに至るまで、倒した見張りは三人。
敵はおそらく、異変に気づき初めているはずだ。
平吉は、中央の円卓のまわりに並べられた椅子のひとつに腰掛ける。
さて、どんな迎えがやって来るのか。
平吉のくわえた煙草から、紫煙が静かにたちのぼった。

平吉がくわえた煙草から最初の灰が床に落ちる頃、驚愕の表情の小男が慌てたようすで、部屋に飛び込んできた。
平吉は、その男をみた。
男も平吉をみた。
小男は、平静を取り戻したか、口元でニタリと笑うと、
「大胆なヤツだな。ここまで入って来るとは」
両手をポケットに突っ込んだ。
「守りがあまいぜよ。えてして人殺しの集団というのは、自分を守るのが下手なもんじゃがの」
平吉は、小男のほうに、煙草を放り投げて棄てた。
「守る必要はナイ。ここで、お前は死ぬ」
そういって、小男は、ポケットから両手を出した。
この男、あのシシンの屍体をあらためていた三人のうちの一人だ。
ポケットから出した両手を揉むようにしている。
しかし、揉んでいるのは手ではナイ。
「今度は、どんな道具じゃ」
平吉は、小男の手に注目した。
「これは、俺の恋人、ラバーだ」
小男が嬉しそうに笑う。
「ラバー、恋人、なるほど、ゴムのラバーとかけたワケじゃな。座布団一枚、といいたいところだが、鉄針の次はゴムか。いろんなものが出ておいでだの」
小男は、揉んでいた両手を拳のままに左右に離していく。
その左右の拳のあいだに、ゲル状のものが伸びている。
指の隙間から、紐状のものが伸びはじめる。
たしかにラバー、ゴムのようだ。
それが、縄跳びのゴム縄のように小男の両手のあいだに伸びて、垂れ下がった。
小男は同じ動作を繰り返す。
小男の拳の左右をつなぐラバーの縄の本数が増えていく。
「器用じゃの。そういうのを、横浜の中華街のラーメン屋でみたことがあるが、まさかラーメンを御馳走してくれるワケじゃあるまい」
「たわけたことを。ほざいていろ、いまのうちだ」
小男はいうが早いか、まるで投網(とあみ)をうつように、そのラバーの束を平吉に向けて、一気に投げた。
伝統芸能の『土蜘蛛』の糸のように、ラバーは、空中に拡がり、椅子に座っている平吉をすっぽり包むカタチでおさまった。
「このラバーは、ただのゴムではナイ。まさにわしの恋人のように、女子(おなご)のように、きさまを抱きしめて、締めに締め抜く。きさまの肉は絶たれ、骨は砕ける」
小男は、そういうと、締めよという合図でも送るかのように、手元でラバーの端を、グイッと引いた。
平吉を包んでいたラバーは、一瞬にして、平吉をからめ捕ったまま縮んだ。
平吉のカラダは、握りつぶされるように、くしゃくしゃになったワケである。

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