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2013年7月 3日 (水)

マスク・THE・忍法帳-3

如何なる手段で秘宝を取り戻すか、その最も近いヒントである張大元の述べた秘密組織『黒菩薩』に、どう近づくか。平吉、思案の二日が過ぎたが、何も浮かばぬ。
と、新介がひょっこりと、訪れた。
「師匠、ずいぶんとお悩みのようですね」
この若者は、いつも凛とした瞳でものをいう。
「いっそ、予告状をお出しになったら如何でしょう」
と、この件について、まるで知っていたかのように、いうのである。
「新介、お前、何処で、ナニを仕入れた」
と、いう平吉に、新介は涼しい顔で、
「師匠の悩み事がワカランようでは、弟子とはいえません。この二日、師匠のアトをつけていました。勘弁してください」
平吉は苦笑いをする。
「よくもまあ、俺に悟られずに」
そうして、けたたましく笑って、
「そうだの。予告状という手があったの。そりゃあいい」
事も無げにいってのけると、翌日、全国紙の朝刊にデカデカと、
〔『黒菩薩』に告げる。お手持ちの三つの秘宝、二十面相が頂戴する。油断めさるな〕
まるで、また戦争でも起こるかのようなぶち抜き記事が掲載されている。
驚いたのは、まず、新聞社の記者から編集長。それから警視庁だ。
しかし、これくらいのことは二十面相平吉にとっては朝飯前。
活版所、印刷所、新聞社から雑誌出版社まで、平吉の部下が忍び込ませてある。
おそらく、この記事は『黒菩薩』という組織の目にとまるに違いない。
さすれば、先方から、何かの反応があるに決まっている。
大胆不敵に、それを待つまでだ。
秘密組織、殺人集団『黒菩薩』果たして、如何なる手に打って出るや。
また、秘宝は彼らの手にあるのか否や。
                ☆
孫子の兵法に「彼を知り、おのれを知れば、百戦危うからず。彼を知らずばしておのれを知れば一勝一負す。彼を知らずおのれを知らざれば、戦う毎に必ず危うし」とあり。ましてや敵を侮れば、戦いは必敗。
血をみるのがいやで、その伝記中にも一滴の血も故意に流さなかった二十面想平吉であったが、『黒菩薩』なる殺人集団のあまりの残虐非道なる意志表示に、怒りの声もまた慟哭の涙すらいでず、その惨憺たる光景をただ、目の当たりにするだけであった。
というのも、かの『どぶろく長屋』に火の手があがったのである。
あたかも、戦争当時の空襲の風景をみるに似て、その火は単なる火付け放火にあらず、焼夷弾、いまでいうならナパーム弾のごとき様相で、あっというまに長屋は紅蓮の炎に包まれ、そこをかろうじて脱出した住人は、ことごとく、長屋の出入り口付近で、これまた何を凶器に使ったのか、ある者は首を裂かれ、ある者は頭蓋骨を砕かれて悶死していた。
そうして、『黒菩薩』の象徴であるのか、焼け残った杭に『無間地獄』と焼き印された板切れが一枚、惨状とは裏腹に、これを軽く嘲笑うかのように打ちつけられていた。
幸い、葉子は新介とともに新宿の張大元のアジトにあり、また、源治をはじめ、ほんの数人のものは、からくも防空壕に逃れて生き残ったものの、平吉のココロは、あの、戦争当時、疎開中の子供達が眼前で、敵攻撃機の乱射に倒れていく光景を、いやがおうにも映し出し、ただ、
「ここまで、やるとは」
と、重い溜め息をだけ、幾度となく吐いた。
次は俺の命を狙ってくるに違いない。
と、平吉は、それならばと、わざわざ隙だらけに、逃げも隠れもせず、狙われやすい、まだ瓦礫の残る場所を選んで、毎夜歩いた、その三日目の夜。
薄暗闇の中に、後方上部、つまり、瓦礫の塀の上あたりに殺気を感じた。
この、平吉の感じた殺気を、相手もまた感じたとみえ、最初にコトバを発したのは、その敵のほうであった。
「度胸があるというのか、単なる阿呆か、雉も鳴かずば撃たれまいというに、我々を挑発するように、こう夜毎、このようなところを歩かれては、我々としても、お前の命をもらわぬワケにはいかなくなった」
平吉はその声に歩を止めて、
「やっと、出てきんしゃったか。えろう派手に始めなさったから、次は何かと・・・待っていたワケでもないんじゃ。お宝はどうやら、あんたらが大将の手の内にあるらしいの。そこへ辿り着くには、どうしても血路というヤツを開かにゃいけんようだと、覚悟の夜歩きじゃ。で、どうなさる。まずは、名乗ってもらえるかな」
と、大胆不敵にいう。
月が雲から少し覗くと、闇も透かしてみてとれるようになった。
しかし、相手の姿はみえぬ。
ただ、野犬が一匹、傷ついた足を引きずって近づいてきた。
その犬が、突然、キャインと一声悲しく吠えると、もんどりうって、空中でカラダをくねらせ、そのまま地面に落ちて、息絶えた。
「我々に名前はナイ。ただ、仕事に使う武器の名を、通称にしている。わしの名は死針」、声のして来る気配も方向も、尋常の者にはおそらくワカラナカッタに違いない。しかし、平吉はピタリとその方向に向き直った。「シシン。何語じゃそれは」
「死の針で死針」
「武器というたの。そこの野良犬を殺ったのが、その死の針、シシンとかいう武器かいのう」
「そうだ。百発百中、つまりは命中率100%の死の武器よ。頭蓋骨、右目左目、喉仏、心臓、丹田、金的、お望みの場所で息の根を止める」
いってる敵のコトバを、まるで無視するかのように、平吉は、犬の死骸を手にして調べ、その後方、瓦礫のセメントに半ば突きたった、長細い針のようなモノを引き抜いた。長さにして30センチばかり、太さは3ミリというところか、両先端が鋭利な金属の、いわば毛糸編みの棒をうんと細くしたようなシロモノだ。
「みたとおり、犬の頭蓋骨どころか、セメントすら貫く」
そう、自慢げに男の声は呟いたが、平吉は、男の声にはまったく関心がナイといったふうに、その武器を手にしてじっとみつめている。
「ひとおもいに即死がよいか、それともいたぶられての死に方か、選ばせてやろう」
暗闇からの男の声はなおも続いている。
「長屋に火をかけたのは、お前らだな」
やっと、平吉が男に応えた。

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