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2013年7月24日 (水)

マスク・THE・忍法帳-24

 この能力ですら、疎ましい。
 潜んでいる者は多くはナイ。だから逆に油断してはならない。数を頼みの攻撃ではナイということだ。つまり、敵は腕に自信があると、そういうことになる。
 あるいは、飛び道具。弾丸の類が飛んでくるのかも知れない。火縄銃でもナイ限り、火薬の臭いを嗅いでというふうにはいかない。平吉は地面の木の葉を一枚、指先に挟むと、ふいにそれを宙に投げた。もちろん木の葉のことだ、鋭く飛んでいくワケはナイ。ただ、空気の中にフッと飛んで、クルクルと舞い落ちる。その間に、平吉の姿は消えた。
 静寂と、張りつめた空気が、まるでそぐわぬ白樺の木々を捉える。あと一合登れば、山林は雪に埋もれてしまう。ここが、銀嶺との境目だ。白無垢と朱染とのワカレ目だ。誰だまだ、死ぬ気でいやがるのは。
 と、雨。ではナイ。液体が雨のように降ってきて、その液滴が落ちたところが白い煙を上げている。降り注いだのは強酸らしい。平吉の居場所を突きとめようと、塩酸だか、硫酸の雨を降らしているのだ。宙空を鳶らしい鳥が旋回して飛んでいる。その鳶に仕込みを施してあるらしい。
 平吉は、立った。何処からでもみえるように。潜んでいるのが面倒臭くなったといってもいいが、おそらく平吉なりに、敵に身斬りをつけたのだろう。
 適当な方向に平吉は叫んだ。
「沖縄分院の局長とかの配下か、それとも別口か」
 数秒、山の自然の音だけがしていた。で、応答があった。
「沖縄では、キサマに同胞が五十四名惨殺された。俺はその仇が討ちたいだけだ」
 違う。そうではナイ。あれは、自分の仕事ではナイ。しかし、そんなことをいっても始まらない。
「いつでも、どうぞ」と、仕方なさそうに平吉は応えた。
 手裏剣が飛んできた。特種な手裏剣だ。刃の部分が金属ではナイ。それは、平吉が避けたさいに、木々に突き刺さって炸裂し、白い煙を上げた。刃の部分がガラスの容器になっているらしい。そのガラスの中には強酸が仕込んであるという寸法だ。
「あのな、ちと、聞きたいんじゃが、俺が近づくとワカル仕掛けというのは、どういうヤツかね」
 不敵というか、不意にというか、そんなことを平吉は口にした。
 また手裏剣が平吉の首もとをかすめた。後ろのほうで、炸裂音が聞こえる。
「最初は、何か臭いでもつけてあるのかと思うたが、そうでもナイ。人間の五感でワカルなら、視覚ということでもナイことは調べてみた。すると、聴覚ということになるが、違うかな」
 続けて数本、手裏剣が飛んだ。そのことごとくを平吉は受け止めて、三方向に投げ返した。敵がじっとしているハズがない。動く気配の方向に投げ分けたのだ。これには、敵も驚いたろう。
「恐るべし二十面相。なるほど、聞きしに勝るとは、このことだな。まあ、そのワザに敬意を評して教えてやる。聞いたところで、逃れられる術はナイが」
 平吉は肉の焦げる臭いを嗅いだ。運良くなのか、一本が敵さんに命中したらしい。
「二十面相という標的が半径10メートルの領域に入ると、我々には右側だけ耳鳴りが聞こえることになっている。その方法は教えるワケにはいかぬ。耳鳴りというのは、たかだか10decibel でしかない。その音の大きさは、このような森に枯れ葉が舞い落ちる、その程度の音でしかない。それが耳鳴りになると、かくもうるさい」
「なるほど、耳鳴りがねえ。考えたな」
 共鳴という原理を応用しているのだろう。平吉は闘いの最中に、そんなことを悠長に考えていた。というのも、こちらはもう敵を捕捉してあるからだ。
「肉の焦げる臭いは、耳鳴りより確かだぞ。誰だか知らんが、名無しのナイフ屋、あんさんの居所は手に取るようにワカル。というか、あんさん、三本のうちの一本が偶然に命中したと、バカなことを思ってるんじゃなかろうな」
 敵は怯んだ。まさか、あの出鱈目に投げられた三本のナイフの一本が、自身を狙って投げられていたとは。神業としかいいようがナイ。
 と、平吉はポケットからナイフを出した。
「で、こっちもナイフを投げる。てな、もったいないことはしない」
 平吉は、地面に落ちている木切れを一本拾うと、ナイフでそれを削りだした。
 その間にも、硫酸だか、塩酸だかを封じたガラス・ナイフが飛んできたが、まるで平吉のほうに興味がナイといった寸法で、一本も命中しない。
「そろそろ、強酸ナイフも尽きる頃かな」
 いうなり、平吉は、尖らせた木切れを、槍投げの槍のように構えて、これを前方、上向きに投げた。
 木から落ちてきたのは猿ではナイ。木切れに腹中を貫かれて、黒づくめの男がひとり、やっとの思いで、身を起こして膝をついた。
「何故、俺の居場所が、ワカッた」
 コトバは血とともに吐かれた。
「ナイフを投げに地上に降りては、舞い上がって、木々の枝から、俺を観下ろしていたんだろう。まさか頭上にいるとは気づくまいと、それが、あんさんの油断じゃったの」
「なんというヤツだ」
「地獄の土産に、教えてやるが、あんさんのカエシ(復讐)は相手が違うぜ。俺は、沖縄では、あんな残酷な人殺しはしておらん。黒菩薩も、ちょいと内部で揉め事がありそうだの」
 その平吉の声は、すでに息絶えた男の耳には届いていない。
 平吉、振り仰げば、銀色の峯が眩しく、目を細めた。

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