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2013年7月18日 (木)

マスク・THE・忍法帳-18

 平吉はカラダの隅々まで、くまなく調べたが、例のシルシというのは、どうしても、み当たらなかった。いったい何が自分に付けられたのか。襲われるのは仕方がナイが、変装が出来ぬというのは致命的だ。
 そのうち、新手が現れた。
 明けて昭和28年、コザの正月のことだ。
 例によって浮かれているのは占領軍(進駐軍)だけだ。女たちはその相手をしている。終戦から返還までの道のりで、売春経験を持った沖縄の女性は、全女性の八割ともいわれる。それは、こののちのベトナム戦争に多くを因する。
 しかし、いま(平成)なお沖縄は沈黙する。沖縄は声高に基地反対を叫びもするが、多くの苦渋はその沈黙のうちにある。どこだかの坊ちゃん政治家が、マッチポンプでこづかれた慰安婦問題など、ガキのうんこちびりのようなものだ。「汝、花を武器とせよ」とは竹中労親方の名文句だ。このコトバにこめられたパラドキシーな情念をなんとする。 
 コザ十字路と俗称される花街。そこを裏手に逸れると、もう原っぱである。
 平吉は周囲をふいの霧に包まれた。自然のものではナイ。あきらかに霧状のガスが平吉の周囲を、外界から遮断している。その霧の中から、
 新手の敵は三人。武器は真っ当に日本刀だ。
 三人は、肩車で一体となった。これぞ、裏柳生流三位一体。頭上からの唐竹割り一撃、中央は突きの一撃、イチバン下は足を払う。この攻撃が同時になされる。当時、如何なる剣豪もこれを防ぎきった例なし。剣法の中において考え得る最強の戦術であった。
 しかし、如何に同時攻撃とはいえ、多少の時間的誤差は生じる。といってもコンマ数秒だから一秒に満たない。平吉はその0,5 秒の間に、足を払う剣を片足で踏み、中央の突きをかわしつつ、その襟首を掴むとこれをぐいっと引き寄せた。突きの速度に引き寄せられた力が加わる。頭上の一撃は、この中央の男の頭蓋骨にめり込んだ。
 三位一体は、一度失敗すると二度はナイ。下の男は逃げ去ったが、頭上の男の腕を後ろ手にとると、平吉は男の口に手袋を放り込んだ。舌を噛ませないためだ。
「ひとつ聞きたいことがある。俺に付けられたシルシとは何だ」
 男は微動だにしない。
「そうか、それでは喋れんか。喋らんでもいい。唇の動きだけで充分だ」
 平吉は、男の腕を掴んでいる手に力を入れる。
「可哀相だが、仕方がナイ。こうすると、筋肉は伸びる。恐ろしく痛い。むかし、ゴルゴタで磔刑にあったイエス・キリストが、十字架にはりつけられるときに、こういうことをやられたらしい」
 男から脂汗がしたたり落ちた。
 知らん、といっている。つまり、命令を受けて襲撃しただけらしい。それならそれでよし。平吉の素性を見破ることの出来る、つまりシルシを判別することの出来る能力を持った者が存在するということだ。
 平吉は、周囲に視線を走らす。誰かが何処からか、この闘いを見物しているはずだ。
 と、こちらに近づいてくる者がいる。背丈は六尺をこえている。隆々たる筋肉。上半身は裸だ。その肌の色は黒く艶ばんでいる。黒人兵なのだ。彼はテーピングをした両手を構えた。ボクシング・スタイルというやつだ。
「まだ、やるってか」
 平吉は、掴んでいた男を放り出すと、ヒザを軽く曲げ、両手を自然に前に突き出したカタチで相手の目だけを観る。重心は爪先に置かれる。戦場では武道の格闘技は役にたたない。兵士は重装備を強いられる。柔道着や空手着のようなラフな恰好ではナイのだ。
 しかし、いまは徒手空拳。平吉のとったファイティングポーズは、傭兵の基本とされている。
 黒人兵が接近してくる。平吉が素手でやる気をみせたからだ。
 ジャブが飛んでくる。平吉はすっと沈むように身を縮めると、相手の足を両手で取り押さえるた。それからそのまま金的に肘撃ちをくらわした。ウオっと黒人兵のカラダが前に屈む。平吉は素早く道端の瓦礫を拾うと、相手のコメカミに横殴りを一発入れた。鈍い音がした。次の瞬間には、黒人兵は地べたに突っ伏していた。戦時の闘いは格闘技ではナイのだ。およそ格闘技のルールでは反則とされることの応酬となる。使えるものは何でも使う。黒人兵のボクシングは平吉のカラダをかすめることもなく、終わった。
「つまらん遊びはやめにせんか。そっちの戦力が少のうなっていくだけだぞ。ケリをつけるのなら、早いほうがええんやないかの」
 何処へということはなく、平吉はそう叫んだ。
 霧の中から、というよりも、その霧を左右に分けるようにして、礼服を着込んだ老人がひとり、ステッキをついて現れた。老人はうんと小柄であったが、矍鑠として眼光鋭く、平吉からの距離は約六間。殺気はナイ。
「わしは、この沖縄で『弥勒教団』の顧問をしておる者だ。貴君は我が組織の調査によると二十面相という泥棒だそうな。本土鎌倉江ノ島での活躍は聞いている。我々としては、貴君が沖縄まで足を運んだのは、教団を壊滅せんとする行為であると了解しておる。それが何の理由でかまではわからぬ。いま、私にいえることは次の一言のみだ。・・・和解というワケにはいかぬのか」
 平吉は我が耳を疑った。

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