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2013年7月14日 (日)

マスク・THE・忍法帳-14

ソビエト連邦がまだあったフルシチョフの時代にベルリンの壁が出来る。冷戦のクライマックスだろう。しかし、考えてみると、連合国(米、英、仏)は過去二度も大戦の糸口となったドイツに、戦後すぐ再軍備をさせたことになる。日本には平和憲法をギフトしたのにである。これが政治という奇怪な駆け引きというヤツなのだ。
 泥棒長屋。平吉と葉子の居宅。葉子は看護学校へ登校していて留守。葉子はその年の春から、看護学校に通っている。平吉は事の次第を新介に話して聞かせたアト、渋茶をすするる。
「ところで師匠、僕は帝国時代の軍隊の組織というものも、はっきり知っているワケじゃないんですが、師匠はもちろん、ご存知なんでしょ」
 と、新介の質問は最もだ。半世紀かけて日本に再軍備をもたらそうとする『デモクレスの剣』計画、いったいどんな再軍備を日本に敷こうとしているのか。
「士官と下士官の区別も知らんのじゃろ。軍隊というのは、上意下達の組織じゃから、上から下に命令が行くが、組織自体は、下のこまいのからの積み重ね、束ねになっとるんよなあ。下が分隊、これは十人くらいの編成で分隊長というと、軍曹か曹長になる。しかしこの下にも五人くらいの小粒があって、それを束ねるのが伍長。伍長の伍の字は五つということだ。分隊が集まると、小隊になる。まあ五つで五十人くらいかなあ。少尉か中尉が隊長さんじゃ。少尉さんから上が士官ということになる。将校ともいうがな。それが集まって中隊。大尉か少佐が隊長。お次は大隊、これは千人規模になる。隊長は少佐になっとる。千五百人単位で連隊というのが組織される。師団というのは一万二千人くらいの大所帯になる。あまりの大所帯で動きにくいということもあって、この下に旅団というやや小規模の兵団を作ることもある」
「師団というのは、えらくデカイんですね」
「師団というのはな、特別でな、兵器や火薬、食料にいたるまで、すべて師団内で賄えるだけの独立性がないといかんのじゃ。従って、一個師団というのは、軍事力を計る目安になるんじゃ。どの程度の軍事力を持っているかは、師団の数の所有に依る。今度の依頼人のいうところ、一人の諜報員は一個師団に値するというのが、陸軍中野学校の信条やったそうじゃが」
「ですが、そういうものをまた日本につくらせる計画じゃあ、ないですよね」
「そうよなあ、なんしろ、原水爆のある時代になったからのう。爆撃機に原爆一個積んで落せば、一つの都市が灰になる。これから先の戦争はどういうカタチになるのか、ようワカラン。しかし、アメリカという国はな、戦争のほうはプロじゃと考えたほうがいい。じゃけん、そのプロの頭脳集団がなんぞ、恐ろしいことを考えたんじゃろう」
 ズズッと渋茶をすする音と、新介が煎餅をカリッとかじる音が同時に聞こえ、いたって平和、平穏無事にのどかという添え字でも書きたい光景ではあるのだが。
「ノートは何処にあるのか、師匠はもう見当をつけとられるんでしょ」
 極めて難しいことを平気な顔で新介はいったが、平吉のほうも、
「まあな」
 と、安穏たる口ぶりで応えた。
「何処なんです」
「沖縄じゃな」
「オキナワ」
「未だに返還されていない日本の領土。どういうワケか終戦直後、ここに『弥勒教団』の分院が、目立たぬように建設されとるんじゃ。こないだ、舞さんをサナトリウムに見舞いにいってな、そんな話になったんじゃ」

 
 信州、国立結核療養所。
 そこにあの『リュパン』の女主人、舞を入院させたのは平吉であるが、それを勧めたのは看護学校の葉子であった。何でも、パスとかいう薬が開発されて、ストマイだけだった結核治療が進歩をとげたらしい。結核は治る病気になっていたのである。
「えーと、パラアミノサリチル酸、通称はパスとかいう薬が、ストマイよりも効くとかいうことです。その治療が、ここで受けられますから、安心して生きてみて下さい」
 葉子のメモから薬の名前を読んで聞かせると、ベッドの上の舞に平吉は照れくさそうな微笑みをおくった。舞はその視線を瞬時に受けて、静かに俯くと、うなずいてみせた。
 もはやトーマス・マンの『魔の山』の時代ではナイのだ。といえ、結核は現在(平成)の日本でも猛威をふるっていて、日本は要注意の国に数えられている。これは、中途半端に治療を打ち切った患者の結核菌が、抗生剤に対して耐性を持ったために、他の患者にも有効性が薄れたからである。そのため、現在はツベルクリン反応試験は廃止され、生後六ヶ月の乳児へのBCG接種が義務づけられている。
 アタリマエのこととして付け加えておけば、『リュパン』の女主人は、平吉の愁嘆場の大芝居のアト、解毒剤の注射で命はとりとめている。平吉もひとが悪い。というか、ああいうロマンスのひとつも演じてみたかったのだろう。

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