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2013年7月 8日 (月)

マスク・THE・忍法帳-8

「話は聞かせてもらった。なるほど、それがお宝か。ほんとうなら、それを手に入れるだけで良かったんだが、長屋の者の恨みもはらさにゃいけんのでの」
「きさまは、」
瞠目というのは、ちょいと違うが、似たような心情に違いない。弥勒の仮面が小刻みに震えている。
「お待ちかね、怪人二十面相さ」
と、いうなり、平吉は、机の上の三つの宝をかっさらい、さらに、仮面の教祖に向けてヒュンッ、何やら投げたものがある。
それは、仮面の教祖の肘に巻きついた。というか、弥勒の仮面がとっさにかばった腕にとりついたといっていい。
たしか、それはそう、さきほどの殺し屋が武器として使ったあのラバーの一片の切れ端である。
「こ、これは」
と、教祖さまは片手でそのラバーを引きちぎろうとするが、
「それは、一度食い込むと締めつけて、肉を破り、骨を砕く。ふふふっ、ゴム使いのおっさんがいうておったよ」
「な、ナニ」
瞬間、バキッという音をたてて、弥勒の仮面の肘の骨が粉砕された。
「いやあ、恐ろしい武器だな」
平吉は、平気な顔で笑っているが、腕を折られた教祖は、その場にうずくまった。気絶したらしい。
「じゃあ、このお宝は頂戴しておく」
大胆不敵、あの二人の殺人鬼に気づかれることもなく、教団地下の『黒菩薩』中枢に忍び込み、まんまと、宝を手にしているのは、平吉二十面相なのである。しかも、教祖には仕置きを施しての挨拶だ。

「捜さんでもええよ」
と、そんな声がしたのは、教団の地下の拝殿。おそらくは何らかの秘密めいた儀式が執り行われる場所だろう、弥勒菩薩の彫像を中心に、百人ばかり収容出来る広さがある。
振り向いたのは、あの野太い声の男。
そうして、声の主は、
「誰だ」
という、野太い声の男に答えるまでもなく、平吉二十面相である。
「お訊ねの、ひと呼んで、怪人二十面相」
ひるむことなく、野太い声の男は、口元に薄笑いを浮かべた。
「ほう、そっちから現われたか」
「現われたかも、クソもない。こうして、わざわざ、おんしらのアジトに出向いてきとるんじゃからな」
「ふてぶてしいヤツよな」
野太い声の男は、左拳(ひだりこぶし)を下段に、右拳を頭上に構える。
「わしは、小細工の武器など殺しには使わん。中国八極拳、沖縄空手、日本拳法、これらを取り入れたのが、わしの殺人拳法、牙竜真拳だ」
「ガリュウシンケン。教養がナイのでどういう字を書くのかしらんが、すると、あんたのことはケンポウさんと呼んでいいんかの」
「しゃらくさい。どうとでも、かってに呼べ」
「まあ、いわゆる素手で殴って人殺しをなさるというんじゃな」
平吉二十面相は右手を拝むように前方に差し出し、左手は腰の裏側にまわして直立不動の姿勢で立った。
「その構えは、中国の清王朝にあったという流派のひとつ、古山八卦掌の構えだな。お主は拳法もやるのか」
と、ケンポウの声は、拝殿にこだまする。
「友達に、中国人の大人(たいじん)がいてな、ちょっと教わったんじゃ」
「手合わせしたことはナイが、いい機会だ。俄仕込みの拳法が、わしに通ずるかどうか、とくと味わってみるがいい」
男の拳の上下が入れ替わる。
それから、それは弧を描いていく。
「あのな、おっさん。勝負は一撃でつく。恨むなよ」
いったのはもちろん平吉だ。今度はケンポウさんではなくおっさんだ。こういう時の平吉はほんとうは、フザケテいるのではなく、心底怒っているのだ。
「なかなかいうな、小僧。よし、一撃でケリをつけてやる」
男の足が、大理石の床を蹴って、ふっと、その身体が飛んだ。
と、その瞬間、平吉の腰の後ろの左手が前に出る。
ズバーンッという檄音と、火花がして、平吉の左手から硝煙が立ちのぼる。
その手に握られているのはデリンジャー。小型拳銃だ。
弾は、男の額に命中して、はたして、男の拳法が如何なるものか、わからぬままに、男は床に叩きつけられるように落ちた。
確かに、勝負は一撃で決まったのである。
「卑怯だと思うか、おっさん。しかしのう、殺し合いには、卑怯もへったくれもありゃしねえのよ。戦争で、俺が勉強したのは、そのことだけじゃな」
男の額から血が流れて、大理石の床を染めた。
もはや、男に息はナイ。たぶん、何で自分が死んだのかもワカラヌままに、死んだのであろう。男の眼は、疑問とも懐疑とも、驚愕ともつかぬ様相で開かれたままだ。
平吉は、デリンジャーをポケットにしまうと、いまの発砲音で駆けつけた、最後のひとりの顔を睨むようにみた。

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