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2013年7月12日 (金)

マスク・THE・忍法帳-12

「すると、その『弥勒教団』というのには、分院があるんですか」
 不安であるはずの気持ちを屈託のない笑顔に隠して、平吉の弟子、戌江新介が天井をみながら、そういう。平吉は「ほいね」と、気のないような返事をしてから煙草に火を点ける。
「三つかな。みな『黒菩薩』の旧幹部が局長をしておるらしいな。いずれ報復はあると思うていたが、案外早かったな」
 そのままゴロリと横になった。
 簡易な文化住宅。木造平屋建て。今度は長屋ではナイ一戸建てになっている、新「ドブロク長屋」の平吉の住居である。
「昨夜の居合の女性というのも、その類ですか」
 新介は、昨夜の事件を観たワケではナイ。たったいま聞かされたところだ。
「その類にしては、腕は今ひとつだったなあ。サーカスもんの泥棒稼業に身斬られているようじゃ、ヤットーも廃るってもんだ。しかし、そのアトでヌッと出た、あの女刺客の師匠のような剣客は、そうは簡単にすまんじゃろう」
「いったい、どれだけの人数が刺客となって襲って来るんですか」
「それがわかれば苦労はナイが、当時の『黒菩薩』という中野学校の特種機関以外からも手練は集められているだろうから、人数まではワカラン」
「じゃあ、どうされる気で」
「ともかく、おんしは」
「僕のすることはワカッテますよ。葉子さんを護ればいいんでしょ。張さんが、ボディガードを二人ばかり、張り込ませると、いうてらっしゃいましたから、それは安心だと思って下さい」
 平吉は、ムクっと身体を起こすと、煙草を火鉢で揉み消して新介の姿を瞳に映した。
「これは、戦争みたいなもんじゃから、下手に攻撃すると、相手の戦意に火を点けるだけだな。攻撃は最大の防御なりというのは嘘だよ、新介。ありゃ防御でなく、暴挙だ。そういうことは、ほんものの戦争そのもので、兵隊として学んだ。敵の戦意を喪失させるには防御のほうがええ。いっくら攻撃してきても無駄だと、というか、損だと、損得勘定の算盤で知らしめること。これが最大の攻撃さ」
「すると、大将は、迎え撃つと」
「この前は事情があって、敵の本拠まで潜入したが、今度は事情はあちらさんにある。どないなことをしても、二十面相には歯が立たんとわかれば、向こうも引くじゃろ」
 大胆不敵とはこのことをいうのかも知れない。
「ともかく、俺は、いつもの通り本業に精を出す」
「次の獲物は何ですか」
 新介の膝がずずっと平吉に近づいた。
「江戸は安政の小判、鶴印亀印の二枚。これをなんとまあ、十二歳のガキが、誕生日のプレゼントで財界から贈られた」
「その小判を」
 お宝そのものがありきたりに過ぎる。やや、不満そうな声で新介が詰め寄る。
「いんや」
 と、平吉は微笑む。新介も、ほっとした表情にもどった。
「その席上でな、副賞というではないが、京大の文学部の教授とかが、一冊の本を、やはりそのガキに私的に贈呈しよった」
「本の名は」
「『二十億光年の孤独』とかいう詩集の初版。書いたのがこれまた十九歳という俊英の谷川俊太郎とかいう詩人。おそらく、この本は、末代まで高価なもんとして、安政の鶴亀小判よりも値打ちのあるもんとして残るじゃろう」
「それを」
「頂戴する」

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