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2013年7月21日 (日)

マスク・THE・忍法帳-21

 翌日、平吉は食料搬入関係の職員に変装すると、米軍基地に堂々と忍び込み、無線を拝借して、東京、新宿の張大元と通信した。張くらいになると、沖縄を無線で結ぶ通信機器は装備しているのだ。
 平吉は沖縄戦のことをいま少し、詳しく張に訊ねた。
「沖縄人の口は堅いのです。まるで貝です。何故ならば、未だに警戒心を解いていないからというのがひとつ。つまり何か都合の悪いことでも喋ってしまうと、スパイ容疑を着せられないかと不安なのです。それから、彼らは日本本土の政治家など信用してはいないのです。従って、その関連の調査には非協力的です。沖縄戦の報告は、生還した兵卒など軍属によってなされています。それは嘘か美談でしかありません。如何によく沖縄で帝国軍隊は果敢に戦ったかという物語です。また民間義勇軍が聞くも涙の活躍をしたかという、お話です」
「じゃあ、沖縄戦の全貌、いや、一部でもええんじゃが、それがどんなものだったかは、いまなお知られざることだと、そうおっしゃるんですね」
「そうです。文目(あやめ)もつかぬ闇の中です」
「いったい、終戦後の三ヶ月近くを、沖縄の守備隊や民間戦闘員は、誰の指揮で動いていたんですかね。あるいはまったくのゲリラ戦だったんですかね」
 ゲリラ戦かも知れない。しかし、と平吉はそこで、一歩踏み込む。ゲリラ戦にしても、そのゲリラ戦を動かしたヤツがいるのではないか。何のために。戦争が終わっていることを知りながら、何のためにアメリカ兵と戦わなければならなかったのか。何のために、何のために、誰がいったい。
 無線の無断使用のところへ、正月のお屠蘇気分(米国ではお屠蘇はナイだろうけど)つまり酔っぱらった兵隊が、フーアーユーと入って来た。ちょうど張との通信も終了したところだったので、平吉は、その酔漢に、アイアム ザ マスクと、ひとこというと、肩を叩くようにしてすれ違った。何をどうしたのか、酔漢はその場で気を失って倒れてしまった。グッドバイ。運が悪かったのだからグッドではないだろうが。

 平吉が沖縄の米軍基地に入るのはこれが初めてだった。えらく広いもんだなと感心していたが、このアトこの軍事基地施設は拡充され、ベトナム戦争のさいには前線基地になってさらに重要度を増し、本土返還という詐欺のような政治決済が済んだアトも、米軍の占領領土であることに政治的な変化はナイ。
 米軍があからさまに沖縄に核を配備しないのは、近隣に台湾があるからで、何も日本側への配慮ではナイ。一時、北海道と沖縄にサイロ型の核ミサイル発射台を建設する案もあったらしいが、サイロ型は固定タイプであるので、先制攻撃を受けた場合に役に立たないことが多く、検討されているあいだに、ソビエトは破綻して、中国に対しては原潜のミサイルの照準を合わせるだけでよくなった。
 中国が台湾を恐れるのは、台湾そのものに対する敵対心ではナイ。地勢学的、軍事的にみれば、台湾に中距離戦術核ミサイルでも配備されたら、それこそ、喉元のナイフになるからである。では、仲良く手を取り合ってでいいではないか、というのは素人の床屋談義で、政治においては仲良く手を取り合ってなどということは、地獄の釜が割れることはあっても、あり得ないことである。

 表の駐車場に停めてあるトラックまで行くと、あの男が運転席に座っていた。
「私が運転していきます。沖縄は車は右を走りますから、本土とは違って運転しにくいと思いまして」
 男の名前は佐吉といった。まだ二十三歳である。どうせ無免許に決まっているが、それは平吉とて同じことだ。
「何処まで、いきましょうか」
 と問われたが、アテなどナイ。教団に攻め入っても埒はあかない。協力をあおげそうな連中は、この佐吉を残してすべて討たれた。『デモクレスの剣』は何処に在る。まったく見当もつかない。
「佐吉くんよ、あんさんは、『デモクレスの剣』とかいうのを耳にしたことはあるか」
 直截な質問ではあったが、いまのところ、生き残りの佐吉しか伝(つて)はナイ。しかし、こういう果敢なところが二十面相、平吉の資質なのだ。
「デモ・・」
 と、いいかけて、佐吉は思案、いや、記憶を辿っているようだった。
「私のような下っ端には、そういう教団の機密事項については何を知る権利もありませんから」
「そうか。それは、教団の機密事項なのか」
 平吉の表情は微動だにしない。
「そうじゃないんですか」
「何故、そう思った」
「そりゃあ、私に、そう訊ねられたので」
「ふーん」
 トラックは舗装された道路を、何処に向っているのか、走り続けている。
 長い沈黙がつづく。
「いま、何処に向っている」
 と、やっと平吉が口をきいた。
「適当です」
 と、佐吉が答える。
「沈黙は金とは、よくいうたもんやの」
「何のことですか」
「俺がずっと黙っていたので、あんさんのペテン(テキ屋のスラングで頭のこと)は、俺がいったい何を考えているのかと一所懸命に推理しとったろう。もしや、もしやと、訝しんでおったろう」
 佐吉の眼が、道路から視線をずらして、伏せ目になった。
「あんさんは、二度、俺のアトをつけた。今日と、昨日の洞窟だ。二度とも俺はそれを見破れなかった。アトをつけられて、二度も俺に覚られないというのは、よほどの者でナイ限り、出来ないことだ。このトラックは、三途の川の渡し場に向っているんかの」
 佐吉は、まだ口を開かない。

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