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2013年7月10日 (水)

マスク・THE・忍法帳-10

東京、銀座、新春。
さすがに正月早々、銀座に繰り出す客もいないのか、東京の連中は、浅草観音や明治神宮あたりに初詣だろう。
『リュパン』、その一室。
平吉は、椅子に腰を降ろして、頬杖をついている。
やがて、あの若い女の声が聞こえた。
「子細は、舞からすべて聞きました。ありがとうございました。もちろん、真相を看破ってらしたことも、聞き及んでおります」
「舞さんとやらには、出番がなくて残念だったねと、伝えてやってくれ、ふつうの活劇チャンバラなら、窮地に立たされた俺を助けて、そのうち恋心が芽生えてと、そんなふうになるんじゃろうが、あいにく、二十面相には、そういうロマンスはないんでね」
相手は沈黙している。どうコトバをつないでいけばいいのか、思案というところだろう。その沈黙を平吉が鋭利に裂いた。
「ここに来るまでに時間がかかったのは、ワカラナイことを調査していたからだ。あんさんの口からはいいにくいことじゃろうと思うて、俺の情報網のすべてを使って調べた。あの三つの宝は、あんさんの父親、初代の『弥勒教団』の教祖が宗教的理由で、考えて製造させたもんなんじゃな。それを真に受けたいまの『博愛弥勒教団』の教主、ほんとうの顔は暗殺集団『黒菩薩』の首魁が、あんたの父親を抹殺して、手に入れたんじゃな。その仇討ちに、俺は使われたと。しかし、」
「長屋のことは、私も迂闊でした」
悲痛な声であった。おそらく泣いている。震えている。
「いや、あんな宣伝広告で、煽動した俺の作戦の失敗じゃ。責めはせんよ」
「いいえ、すべての責任は私にあります」
何やら決意したような口調が壁の向こうから返ってきた。
平吉は、反射的に立ち上がると、四方の壁のうち、ひとつを選んで蹴破った。
壁を隔てての、部屋が現われた。
そこで、女がひとり、いましも、倒れ伏したところであった。
もちろん、読者諸氏の予想通り、それは、あの舞そのひとである。
「あんた自身が、南部師匠と縁があったというのは、ほんとうじゃな。何処かのサーカスか何かにいなさったのか」
女は無言で頷いた。
その唇からは、もう血が一筋、頬を伝って流れている。
「どうせ、長くは生きられぬ身でした。ありがとうございます、平吉さん。感謝しております。でも」
「でも、なんじゃ」
平吉は、舞を抱き抱えながら、カラダを揺さぶった。
「ロマンスも欲しかったわ」
「阿呆、贅沢いってんじゃネエぞ。死ぬなよ。死んではいかん。もう、誰も死んではいかん。あまりにも多く戦争でひとが死にすぎた。この先、五十年は、日本人はそのことを記憶しているかも知れん。しかし、どうせまた、同じことをやりおるじゃろう。だが、今度こそは死んではいかん。生きるために闘わねばならんのじゃ。病院で療養せいや。俺の調べでは、西洋医学では、何やら抗生物質とかいう新しい医薬品で、胸の病も癒えると訊いた。死んではイカン」
無論、彼女が毒を飲んだことは承知の、平吉の悲しい叫びであった。
「阿呆やのう。二十面相には、ロマンスはナイんじゃ」
しかし、平吉の腕の中で次第に冷たくなっていく若き美女は、死ぬ間際にいっときのロマンスを甘受していたのかも知れない。その顔は満足げに、苦しみの影ひとつなかった。

(次章につづく)

作者からひと言:えーと、どうですかね、right novel なんですけど。ここからですね、この物語はアッと驚く展開をみせます。お楽しみに。  

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