無料ブログはココログ

« マスク・THE・忍法帳-21 | トップページ | マスク・THE・忍法帳-23 »

2013年7月22日 (月)

マスク・THE・忍法帳-22

「なんにも、いうことはナイか」
 トラックが加速した。と、同時に佐吉が口を開いた。
「あのガマでは、重症の兵卒はもちろん、多くの非戦闘員、つまり民間人の負傷者で、連れていけぬ者が射殺、毒殺された。もちろん、それを行ったのは、日本軍の兵卒だ。残虐極まりないと、のちにいわれるだろうことは、それを行った兵士にも重々わかっていたことだ。しかし、実際、誰かがやらねばならない。戦争では、強いもの、まだ力のある者から残していく。これが常道だ。重傷者を拳銃で撃った兵士は、号泣している者もあった。誰もが鬼なのではなかったのだ。その罪業に恐れおののいている者も多かったのだ」
 もちろん、その声、語り方には覚えがある。
「そこで、その兄ちゃんたちをも救済するために弥勒さまのお出ましとなるのか。そいつは詭弁というやつやの。そんなものは白旗ひとつ揚げればそこで、解決したんじゃ」
 と、平吉は両腕を頭の後ろに組んでいう。
「そんなことが、当時の帝国日本軍に出来るワケがナイ」
「さあ、それはどうかな。俺も、軍隊の飯は食ってきた。死して虜囚の辱めを受けず、とはいうたが、けっこう、白旗揚げて、投降する連中は多かったぜ」
 トラックはさらにスピードを上げた。タイヤが軋んでいるのか、アスファルトが悲鳴をあげているのか。しかし運転席では、まるでそんなことには関心のナイように対話が続いている。
「平吉さん、いや二十面相くん。貴君にとっては実にイヤな話を聞かせてあげよう」
 佐吉の唇が歪んだ。
「沖縄戦の始まる前に、日本が敗戦することを知っていたのは、陸軍中野学校の裏組織である『黒菩薩』を中心とした、遊撃部隊だ。ここで、我々は指揮官から、意外なというより驚愕すべき計画を聞いた。日本の降伏は100%決まっている。これから南方の本土、沖縄で戦われる戦闘は、特殊な戦闘になる、と、その指揮官でもあり、中野学校の教官は我々に告げた。それを暗号名で『デモクレスの剣』という」
「なん、・・」
 平吉がカラダを起こした。トラックが大きく跳ねた。
「日本の勝敗などには無関係だったんだよ。沖縄戦は、あるモデル戦。シミュレーションの実戦に過ぎなかったのさ」
「『デモクレスの剣』とは、何だ」
 いうと、平吉は佐吉にもたれかかるようにして屈み込み、佐吉の右足首をアクセルペダルに括りつけた。佐吉の足は何かに固定されたことになる。そうされることによって、佐吉の右足はアクセルを踏み続けることとなり、ブレーキを踏むことを不可能にされたようだ。
 ふつうはこんなことは悪玉が、正義の味方に行使して、正義の味方を窮地に追い込むというのがアクション・ドラマの定番だが、平吉はその逆をやったのである。
「答えてもらおうか」
 平吉は佐吉の握るハンドルに手をかけて、今度はハンドルを揺さぶった。トラックは小刻みに蛇行しながら、猛スピードで走っていく。
「おぬしの二十三歳は変相ではナイな。その若さで、『弥勒教団』の黒幕とは、恐ろしいヤツだな。局長とはおぬしのこと、あの真空風閂もおぬしの術だな」
 しかし、このような窮地に追い込まれて、自称佐吉か恐れおののいたかというと、そうでもナイ。
「平吉、この世界に天才は自分ひとりだと自惚れるのではないぞ」
 そういうと、急ハンドルをきって、トラックの進行を直角近くに曲げた。トラックは片方の車輪を浮かして、横転しそうになりながらも、持ち直して着地すると、雑木林の木々をなぎ倒して、砂浜に出た。アメリカ人専用のビーチであるが、さすがに沖縄とはいえ、この季節はひとの姿はナイ。
 トラックは、そのまま海の中に突っ込んで停止した。
 助手席に平吉の姿はナイ。
 自称佐吉は、悠然と、足の括りを解き、半分ほど海に沈んだトラックの窓から、ひょいと抜け出ると、そのままトラックの天蓋に立った。
 平吉は、ビーチに立ってその鮮やかともいえる、彼の行動を観ていた。
「イヤな話の続きを聞かせてやろう。大本営は昭和十九年秋から本土決戦の準備に入ったが、決戦とは名ばかりで、つまりは全軍特攻玉砕ということだ。これを主張したのは軍令部の大西瀧次郎次長だ。あの特攻隊の立案者だ。彼のいいぶんはこうだ、米兵が四~五十万人ほど本土で死ねば、アメリカのいいなりでの降伏は避けられるだろう、というものだ。米軍はオリンピック作戦とコロネット作戦という名称で、九州宮崎と、関東地区に上陸する作戦をたてていた。これに投入される予定だった兵は七十六万人。しかし、三十万近くの死傷者が出る覚悟が必要だった。そこで、上陸侵攻は原爆を落として日本兵や日本国民に厭戦の情を蔓延させてからということに作戦は変更された。この時点で、沖縄戦も見送りになるはずだったのだ。いいかね、二十面相、アメリカが用意した原爆は、広島リトルボーイ型や、長崎ファットマン型の二発ではナイ。合計十一発の原爆の投下が決まっていたのだ。十一発の原爆によって、日本を壊滅させる作戦だったのだ。想像してみたまえ、灰塵に帰した日本の国土を。しかし、たった二発で日本は降伏した。これはアメリカ軍にも意外なことだった。何故、一億玉砕が吹っ飛んでしまったのか。参謀本部と軍令部、つまり大本営における本土決戦主張士官が、続々と謎の死を遂げたからだ。そういえばワカルね。賢明な貴君には」
 ひょんなことからとはいえ、エライものを敵にまわしたようだ。さすがに平吉も目尻に皺を寄せた。
 エライ敵は目の前にいる。真空風閂とは、如何なるワザであるのか。あの酸鼻極まる爪痕を現出させる非道の術。これをどうかわせばいいのか。平吉には何のアイデアもナイ。
 そのとき、雑木林のほうから、ジープが走り込んできた。MPである。
 何やら、フリーズとか、スタンダップとかいいながら、ミリタリー・ポリスがジープから降りてきたときには、砂浜には、風にでもなったのか平吉の姿はなく、海中のトラックの天蓋にも、ひとの気配は消えていた。
 きょろきょろと辺りをみ廻すアメリカ兵の目に、雑木林の木々が数本、炸裂するようにして裁断されて倒れるのがみてとれた。

« マスク・THE・忍法帳-21 | トップページ | マスク・THE・忍法帳-23 »

ブログ小説」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/558792/57758284

この記事へのトラックバック一覧です: マスク・THE・忍法帳-22:

« マスク・THE・忍法帳-21 | トップページ | マスク・THE・忍法帳-23 »