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2013年7月 7日 (日)

マスク・THE・忍法帳-7

ところが、あまりの簡単な展開に、小男のほうが、妙な顔をした。
アタリマエだ。平吉は、投網の攻撃を寸分も避けようとしなかったのだから。
その妙な顔が青ざめた。
平吉の声が背後から聞こえてきたのだ。
「まだ、終りやないんじゃ」
小男は身構えながら振り向いたが、誰もいる気配はナイ。
と、今度は平吉の声が頭上から聞こえた。
「俺も、ちっとは手妻の勉強をしたことがあっての。先代ゆずりなんじゃが」
小男は、からめ捕って、くしゃくしゃに潰した平吉を、大慌てで確かめた。そこに在るのはただの衣服と、帽子がひとつ。
「どうじゃ、忍法『空蝉(うつせみ)』とでも名付けようか。カッコええじゃろ」
たしかに、蝉の脱け殻のように、そこには、平吉の着衣の脱け殻しかなかったのである。では、本体は何処に。
と、シューッというなにやら空気の漏れるような音が一瞬聞こえ、微かに白い煙が立ちのぼった。先程、平吉の棄てた煙草の吸殻からである。
小男は、その事態にうろたえて、反射的に逃げ道を求めたが、息が出来ないことに気づいた。そういった状況が何であるのか小男にもワカッタらしく、両眼を血走らせて口を開けた。そんな努力はなんの足しにもならない。小男は、まず、宙を掴み、膝から崩れ、苦悶のうちに喉を掻きむしり、その場にうっ伏した。
「指輪に仕込んだ自害の青酸カリを飲むまでもナイ。お前さんの吸った煙は、盗みのさいに、お屋敷に放たれた番犬を悶絶させる、青酸ガスじゃ。運が良ければ命はとりとめるかも知れんが、期待せんほうがええの。先に地獄の閻魔さんのところに行ってな」
小男は、また宙を爪で引っ掻くようにして悶えていたが、床に動かなくなった。
「残りは二人」
その平吉のコトバは、もう小男には聞こえてはいなかった。

その残り二人は、アジトの異変の知らせを聞いて、突貫で東京から戻っていた。
彼らはいま、『博愛弥勒教団』の教祖の部屋から教祖を安全な地下壕に連れ出し、その教祖とともに在った。
二人から「弥勒さま」と呼ばれている教祖は、黄金のマントを羽織り、その顔は弥勒菩薩の仮面の下に隠れている。仰々しいが、講談だからこれくらいは仕方ない。
「たったいま、ラバーさまの死体を確認いたしました」
と、部下らしい者がドアを開け飛び込むように入ってくると、慌てて居住まいを正して、報告した。
「まさか、ここに侵入するとは」
と、野太い声の男がいう。
声は心なしか落ち着きを失くしている。
「二十面相が狙っている秘宝とは、どんなものなのです」
女の刺客が、教祖に訊ねた。
教祖は、壁につくられた隠し金庫を開けると、三つの違ったカタチの造形物をテーブルに置いた。
「『エデンの果実』、『ソロモンの魔笛』、『メビウスの懐剣』という。我が教団の初代教主にあたる者が、あるところから盗み出したものだ。宝物庫に置かずに、この金庫に仕舞ってあるのは、この三つの秘宝が、ふつうの宝物とは違うからだ」
仮面の下から、くぐもった声で、教祖は二人にいった。
「何が違うのです」
野太い男の質問は妥当なものだ。
「この三つの宝物のうち、ほんものは一つしかナイ」
「ほんもの、とは」
屠り火が問う。
「それはワカラナイ。それらは、それ自体が秘宝なのではナイ。その秘密を解きあかしたとき、世界支配も可能になるという、ある道筋を手に入れられると聞いている」
「先代は、それをやりとげずに、他界なさったんですね」
野太い声の男は、秘宝の一つを手にした。
「我々の組織がまだ『黒菩薩』とだけ名乗っていたときだ。いまの教団を立ち上げてからも、世界の名だたる学者、研究家に鑑定を依頼したが、けっきょく、ナニもわかっていないのが現状だ」
「二十面相は、何故、この秘宝を狙っているんでしょう」
屠り火も、宝をひとつ手にすると、そう訊ねた。
「いきなりの予告状だった。この秘宝の存在自体を知っている人間は、この日本にも数人しかいないはずだが」
「長屋に火をかけたのは不味かったな」
と、野太い声の主が舌をうつ。
「たいていの者は、あれで降参するんだけどね」
と、その長屋に火を放った張本人が笑いながら応える。
「しかし、二十面相さへ、倒せば済むことだ」
と、そういう野太い声の男に、
「逆に二人も仲間を倒されていて、よくもいえるな」
弥勒の仮面が、叱責するコトバを吐いた。
「油断があったからですよ。まさか、たかが泥棒に、あんな」
その屠り火のコトバを遮るように、教祖は強くいい放った。
「では、その二十面相の素っ首をいますぐここに持ってこい」
二人の殺し屋は互いの顔を瞬時み合わせると、スッといなくなった。
弥勒の仮面は、ドカっと椅子に身を沈めると、溜め息をついた。
が、まるで、バネ仕掛けのようにそこから飛び退いた。
「誰だっ」
いましも、殺人者たちの出ていったドアの影に、男がひとり、黒いコートを羽織って立っている。
こともあろうに、もっかのお尋ね者、その、二十面相、平吉である。

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