如是想解・42
41 探偵は思考する(40のつづき)
このあたりまでは、『心的現象論(吉本隆明)』の受け売りというより、勝手な読み方からの私独自の展開だ。(先述したように『心的現象論』は精神医学のことが記された著作ではナイ)。①が「脳や身体に原因のあるうつ状態でないか」とうつ病診療(診断法)をまずそう考えるとき、この疑問(問いかけ)はアタリマエに過ぎて、殆ど何もいっていないのとどうようだ。何故なら感染症でナイ限り、およそ疾病は脳や身体の変調だからだ。ただ、身体因性とあるように、身体に注視した部分は、うつ病が精神疾患だと思われているのに対する異論(そして疑問)と受け取ってもイイ。しかし「脳」と「身体」とでは、進化の過程における「時間」がかなり異なる。つまり「脳」は進化の過程が新しい、短いのだ。進化論は現在は進化学として、百花繚乱、さまざまな論説と解釈の学派がある。そのまとまりがナイために「創造説」に対抗出来ない。進化学は科学だから、「創造説」を提唱する宗教とまともに論争してもしょうがナイ。科学はワカラナイことはワカラナイといわねばならないからだ。脳の進化に話をもどせば、脳が進化し始めたのは、人類が直立二足歩行を始めてからだというのが、だいたいの学派のトータルな見解だ。今西錦司の学説では、脳の進化の開始を「大脳化」と称する。順を追っていくと、ヒトが二本足で立つようになった。何故立ったのかは今西説では「立つべくして立った」ことになっている。(つまり立つ時期が到来したからだというのだが、これはオモシロイ発想だが、科学としては諸手を挙げて受け止められるものではナイ)。立って両手を使うことが自由になった。で、その手に道具を持つようになった。ここで、ヒトは手を用いて自発的に火を使う(火を創る)ことを覚えた。それまで生で食していたものを火によって調理(焼いたり煮たり)して食べるようになった。すると、硬いものが柔らかく食べられるようになった。その結果次第に歯が退化していく。歯の退化にともなう口腔の(大きさの)変化から、脳が大きくなった。と、これが大筋だ。つまり脳の進化というのは生物進化に比してかなり僅かな時間なのだ。そうすると、ここで、一旦、脳は引っ込んでもらってもよさそうに考える(とりあえず括弧にくくろう)。問題は身体だ。この進化の過程は古く、長い。「ヒトは(生命体)は何故、進化してきたのだろう」という問題についての答は前述したとおり五万とある(それだけの諸学派、学説がある)。ただ、「ヒト(生命体)は何故、進化[出来た]のだろう」ということについては、ヒトが「散逸構造」そのものだから、という説は、現在最も有力視されている。宇宙というものを平衡状態だとすると、その「ゆらぎ」として地球に非平衡状態が出現したとするものだ。「ゆらぎ」は現在のヒトの生命体としての在り方と同じだ。食物を取り入れて排泄し、成長する。あるエネルギーがエネルギーを増幅していく。
マタニテイ・ブルーにおいて出産は、用語解説でも述べたように「表出」に該る。出産は「表現」ではナイ。しかし、ヒトが他の生命体とおなじように自然(環境世界)的におこなう営みだ。で、あるのに、なぜ「ブルー」があり、うつ病発症の因となるのだろうか。一つしか答は考えられナイ。「ヒトという自然は、環境世界の自然とは違う」ということにつきる。つまり出産という「表出」は、元来、類的な営為として自然でありながら、環境世界としての自然とは異なるという、二律背反に置かれている。ここには、ヒトの進化の過程において、出産という「表出」が、自然自体に対して、ある異和として存在しているのではないかという、問題が提起される。この二律背反を母体は受け止めて、成し遂げねばならない。心的な異和を伴う精神的影響下(うつ病の発症近く)に置かれるのは、ごく当然のことと思われる。
« ゆらぎとは「~」である | トップページ | 映画その他 »
「心と体」カテゴリの記事
- 時世録・26(2023.07.24)
- Sophism sonnet・69,8-13(2022.02.09)
- 愛と性をみつめて(2021.10.25)
- 無学渡世・第二幕の6(2021.07.20)
- 無学渡世・第二幕の4(2021.07.10)