秋のプール(改)
すっかり ひとけの無くなった 秋のプールは
さざ波もたてずに 沈黙している
夏のあの 中学生の少年少女たちの
嬌声を憶い出しているのでもなく
それらは 水底に深く沈めて
ただ 次の夏への準備のために
人知れず ゆっくりと水流を起こして
胎水のように 未知の生命を育んでいる
もう その時間を終えた 廃墟の貯水池として
忘却され 失われて
学校という閉ざされた楽園に 静かに潜んでいる
そのようなものなど この世にはなかった
と
子供たちは プールのことなどすっかり忘れ
音楽室で コーラスを歌う
ときおり そのなかのひとりが
何かしら得たいの知れぬ不安におそわれ
コーラスの楽譜を落してしまい 他の生徒から笑われると
そのこは、つくり笑いをして
さとられぬように 窓からプールを観る
少年少女の 夏の歴史がひとつ終わった
進化の秋も やがて黄昏に還っていく
未だ水だけを湛えたプールとともに
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