start line
永島慎二の『漫画家残酷物語』の完全復刻版(全3巻)が出版されたので読んだ。これは私が高校生の頃に傾倒した漫画家であり、私は漫画家になろうという夢があった。いわばこの作品は私の人生のstart lineとなった。ここから私は、太宰と安吾に同時に没頭していくのだが、そういうのは極めて稀なケースで、ふつうはどちらかに寄り添うらしい。たぶん、私のバランス感覚がそうさせたのだろう。再読してみて、1巻はルサンチマン(怨嗟)であり、2巻めは自己否定(自傷的)であり、殆どイイ作品はナイ。ところが、3巻目になると、romanticismが強く、読むに耐える作品となる。とはいえ、いま読めば、マンガはマンガというところだ。なぜ、3巻目で、その体裁やレベルが定着したのかと考えると、おそらく、作者である永島慎二さんはこのシリーズで、漫画業界で食っていけるようになったからだろうと思う。「食えなくてもイイ、描きたいものを描くのだ」という、主義主張のもとに描かれた漫画によって、食っていけるようになってから、漫画のレベルがアップするという、なんとも皮肉なことを、この世間は手品のようにやってみせるのだ。私はこの作品で、「東京」というものに憧れたと記憶している。もう少し具体的にいえば、東京での漫画家志望少年としての生活に憧れたのだ。名古屋に住み始めてからも、何度も東京には足を運んでいる。あの頃の都会といえば、東京しかなかったもんな。ともかくも、幼いながら、私はこの作者の作品から初まったのにマチガイはナイ。私は漫画を演劇に持ち替えたが、筆で食える(食わせられる)ように生活したことが、いまの渡世となったワケだが、それはそれ、「食うていく気にならんと上達せえへんで、ニイちゃん」と、人間ポンプのテキ屋の師匠にいわれたひとことが、二度目のstartだろうけど、この漫画は、いまなおnostalgicな最初の私のstartだ。
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