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2010年7月16日 (金)

つかぬこと

この業界で40年やっているから、表も裏も知っているので、いまさら、立派なひとをなくしたのと、肩を落とすこともなければ、早すぎると嘆くこともないのだが、つかこうへい氏の演劇からは、どんな影響も受けていない私が、現実に遭遇した事柄を少し述べておく。まだ彼が劇団『暫』と良好な関係であったとき、名古屋でも何度か公演があって、まだ彼も時間に余裕のある身であったから、名古屋の演劇インテリたちが、焼鳥屋の二階座敷に彼を招いて、飲み会を催したことがあった。私も末席に座って、酒は飲まず、彼が名古屋インテリ演劇に対して何を語るのかを拝聴していたのだが、まず、インテリ連中の、演劇論の応酬があり、それぞれが(当時の私が聞いていても)ろくでもない立派なことを述べていたが、つか氏はこれに加わろうとはせず、ただ、黙ってビールを舐めているだけだった。しびれをきらした、演劇論リーダーが、「つかさんは、どうお考えになりますか」と、話を振った、そのとき、これをかわすでもなく受けるでもなく、「懐手してひとを斬る」とでもいおうか、ひとこと「ところで、つかぬことをうかがいますが、あなたがたは、何で食べてらっしゃるんですか」と、そのコトバを一閃させた。ここで、空気は凍りついたようになり、演劇論もへったくれもなくなって、さて、その後のことは知らない。私は座を離れたからだ。まさに勝負あったとしかいいようがナイ。つか氏がブレイクして、名古屋の某劇団が『熱海殺人事件』を上演したとき、カーテンコールで、役者が勢ぞろいして、それぞれ手に団扇を持ち、これをいっせいに裏返すと、文字が一文字ずつ書かれていて「客席につかさんがおみえです」と読める趣向だったが、どこを捜してもつか氏の姿はなく、これもまた、つか氏らしいすっぽかしの小気味よさだなと、私は苦笑した。生前は一度もお会いしたことはナイが、おそらく、会っていたら、食うためにゴーストライターの仕事くらいは引き受けていたに違いない。

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