おコトバではありますが・6
さて、やっと、劇言語(表現論)の出番がやってきた。私の表現論の基本的なおさらいをしておこう。私の表現論では、対象と主体(意識)をどう扱うか。たとえば、①カラスは黒い、②バラは赤い、③ギラギラは怖い、という三つの主語述語でなる表現があったとする。この中で正しい表現はどれか。・・・たいていは、①だけだと思うはずだ。たしかに白いカラスはいるかも知れないが(突然変異か、白ペンキに突っ込んで)、バラには赤いのや黒バラも青いバラもある(純粋な黒バラは存在しない)。ギラギラは怖い、といわれても、ギラギラというのがナンなのかワカラナイ。そこで正解は①ということになる。しかし、私の表現論では、主体(私)と環境世界(対象)は、相互に表現をしあって存在している。命題で現すと、「私は世界の表現である」「世界は私の表現である」。従って、劇言語も、ここから始まる。よって、②も③も正解と看做される。何故なら②は「バラ」の表現であり、主体は「バラ」であるからだ。③は「ギラギラ」というものが「怖い」ということが伝わればヨイ。(これは、意外に重要なところだ)・・・表現というのは、ココロの衝動的表出である。なぜ、そのような衝動があるのかは、a prioriだとしかいいようがナイ。劇というのは、「生命体が、その進化の過程において、培ってきた物語」だ。そうして、劇言語は、それを表現しようとする手段だ。言語である以上、コトバだ。コトバであるが、コトバはココロの表出をそのまま表現するということは出来ない(ここも重要なところだ)。従って、ココロの表出に如何にして近づけていけるかというのが、この場合、劇言語の使命ということになる。逆にいうならば、非言語表現というものも存在する。ただし、「身体言語」とか、「映像言語」というものは、存在しない。(手話という言語は在る。また、身体は、「身体としての私=外界」として、意識とは別に扱う)。・・・ここから、劇言語が、形而上学であるということを論じていく。念のために「形而上学」というの何かということを述べておく。漢字から判断すれば、「形而上(しこうして、カタチよりウエ」(ここでの「しこうして」とは、然りなりて、という意味)だから、カタチではナイもののことだ。別のコトバでいえば、抽象的ともいえるし、観念的ともいえる。また、哲学では感覚を「超越したもの」というふうに用いられる。簡単にいってしまえば、身も蓋もナイが「神」というのは、そういう存在だ。では、そんなものは非科学的であって、まともに扱えるのかというと、扱えるのだ。何故なら、私たちがお世話になっている「数学」という学問は、殆ど、この形而上学で成立しているからだ。数学がそうであることによって、物理学(量力学)や天文学もまた、そうである。数学(の数、記号、数式)は、現実にカタチあるものではナイ。「意味するもの」だ。これは、単純に意味とコトバが一致さえすれば、言語というものが成立するソシュール言語学や、ウィトゲンシュタイン言語哲学には都合がいいように思われる。しかし、逆にいうと、どちらの言語学もコトバの「意味」を取り上げているだけにしか過ぎないともいえる。「意味が通じない」「意味が間違っている」というのは、コトバに対して用いられる批判のほとんどだ。「お前のいってること、意味、ワカンネエよ」ともいわれる。これは、(相手のコトバを対象にした)認識(意識)が、相手のコトバの意味を捉えようとして、自身の信じている意味との一致をみないことに対する抗議だ。このことを、私たちはカント、ヘーゲル、フッサールの意識と対象の関係の在り方から、ほんとうは、「意味が通ずる」ことのほうがどうかしていることを展開してきた。しかし、意味は同一性(誰に対しても同じ)でなければならない。従って、ソシュール言語学の「ラング」や、ウィトゲンシュタインの「言語ゲーム理論」が、ある[規準]、[体系]、[法規]として、取り上げられてきた。私たちは、この言語学に、劇言語から異議申立をしようというのだ。
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