春の夜
兵隊というのはなぁ 弾にあたって死んでいくのは十人に一人くらいだにゃ
と 爺さま いうんだ
あとはなぁ 崖がくずれてきたり 土砂に埋まったり 腹くだして 糞まみれで
熱出したり そのまま倒れて もう息がなかったり そんなもんだにゃ
と 爺さま いう
おまえのとっつぁん むかし ゼンキョーテーとかでよ
大衆のために闘ってるっていってよ
そんだら親父と母親がよ わしら大衆に飯食わせてもらって なして石投げるつって
たのむからもう やめてくれって てえついて たのんで
そんだら 泣きだしてなあ たたみ げんこで叩いてなぁ
ほんでも おらぁいってやったし
おめえがやろうがやるまいが 三十年もたってみろ
日本の国なんざ どこも 変わっちゃいねえぞっつて
みてみぃやさ なんも 変わってちゃいねぇっし
いまぁアメリカの植民地さ しかたねえし
そのうち中国の植民地さ おらぁもう死んでいねぇころにさ
芝居 まだやんのけ もうやめんのけ
「俺さ、自分の演技に行き詰まってんだ」
なんさ それ はぁ ようわかんねし
「この先の人生とか生活を考えると、生きていけんのかどうか」
この村にもよ 春になると 小屋がけに 芝居さ 来たな
春の夜だったさぁ 村のし(衆)がみにいったにゃ たのしかったぁ
おめも そういうの やればええさ みなのしが みにくるでぇぁ
あとは 米に味噌つけて食っとけって 死にゃしねえ
そこの板戸開けてみれ おう そこよ そこの戸よ
開けたか みてみい みえたか うんうん そでええ そでええやさ
春の夜 ちゃんと みえたろ あるだろ しんぺえせんでええってし
と 爺さま 笑うんだった|
「かそけし戯言」カテゴリの記事
- Sophism sonnet・69,10-2(2022.04.06)
- Sophism sonnet・69,9-10(2022.03.30)
- なにヤツ(2013.06.27)
- 初期設定の混沌(chaos)⑤(2012.08.19)
- 初期設定の混沌(chaos)④(2012.08.18)