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2009年2月 6日 (金)

演技論メモ・下手とハサミ

伊澤勉という役者がいた。どうしようもなく下手な役者で、何をやらせても、というか、何をやらせたか記憶にナイのだが、故人の相米慎二監督などは、彼が舞台に出てくると「二枚目、早く引っ込め」とココロの中で罵倒したそうである。たしかに遅れてきた二枚目、前世代の日活や東映のニューフェイスというふうに映ってもおかしくはなかったろう。そこで、私はこの〔下手〕を前にして考えた。「下手ならば下手をみせて観客を面白がらせてはどうだろうか」そこで生まれたのが、後にシリーズ化される『伊澤勉のア・ホーマンス』である。殆ど構成台本のみでせりふの多くが行き当たりばったりというこの演目は大当たりした。なにしろ、小林正和と二人、四文字熟語合戦(どっちが多く知っているかという他愛もないゲーム)で、平気で「公衆玄関」などというのである。「公衆便所があるからには公衆玄関があってもいいじゃん」というのが、もう屁理屈を通り越した彼の理屈であった。ところで、『役者論語』にはこれとよく似た話が出てくるのを最近発見した。歌舞伎役者の大看板、坂田藤十郎の写実主義があまりに素晴らしく、手負いの看護をするときの手さばきが見事だと褒めそやされしとき、当時のライバルであった一方の名人山下京右衛門は「では私は出来るだけ無器用な看護をみせて、手負いの看護が出来ないところを見事に演じたと、観客にほめられるようにしよう」といってのけたのである。伊澤勉は現在、上手な演技をやろうとして、まったくつまらない役者になってしまったけどもね。

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